証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく

証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく

著者: 広瀬 みく


第7話:音声という裁きの刃

待っていました。昔は日記しかなかったが、今は録音もできる。時代は私の味方を増やしてくれた。

私はスマホを取り出し、青ざめた田所芳江と不安げな朱美さんに言った。

「録音もありますが、聞きますか?」

選択肢はひとつしかないとわかっていても、あえて問う。

「聞く!」と田所芳江が怒鳴った。声に、何かを確かめたい衝動が混ざっている。

私は該当日の録音をスマホのスピーカーでテーブル中央に置いて再生した。必要があれば夫や義父のスマホにも録音を送り、各自が耳元で聞けるようにした。店員には「少しだけ音量を下げますね」と一言断った。

録音が終わる前に、田所芳江は朱美さんに向かって、誰も聞かれたくない過去の恥部を大声で暴露し始めた。朱美さんも負けじと、芳江さんの古い不倫騒動や借金のことまで叫び返す。店長や仲居が慌てて部屋に駆けつけ、「お客様、少しお静かに……」「もしお困りなら、別室でお話しされますか」と仲裁に入ったが、二人の罵り合いは止まらない。周囲がドン引きして静まり返る中、言葉の刃だけが往復した。

朱美さんは腕を振りほどき、ますます田所芳江は怒鳴り、互いに名前を呼び捨てにして過去をぶちまけ続けた。店側の制止もあって一度廊下へ誘導されるが、廊下でも暴露合戦が続き、場外で恥の連鎖が拡大した。部屋の中は大混乱。座布団が滑り、言葉だけがもう意味を持たない。

二人は言い争いながら部屋の外へ出ていき、他の親戚は見物に出て行くか、こっそり帰ってしまった。足音だけが廊下に散って、残響が細く長い。

最後に部屋に残ったのは私、姑、義父の三人だけだった。器の割れた欠片が、場の結末を無言で照らしている。

姑は部屋の惨状を見て泣き出した。

「玲華、あなたのせいで年越しの宴が台無しよ!」「こんなにお皿を割って、壁にも穴が空いて……いくら弁償すればいいの?」「うちの家は何の因果でこんな嫁をもらったの?」

泣きながらも、矢印の先はきっちり私だ。

私は訂正した。

「お母さん、私は全部お母さんの言う通りにしただけです。証拠も見せましたよね?」

約束に基づく行動の結果だと、冷静に差し戻す。

「そのノートなんて今すぐ破ってやる!」と、姑は私に飛びかかった。手は震えているのに、その先だけは真っ直ぐだ。

私は思わず手で防御した。反射的に上がった腕の角度まで、記録したくなる。

すると姑はさらに大げさに畳の上に座り込み、太ももを叩きながら泣き叫んだ。

「ひどい、嫁が手を上げた!助けて!殺される!」。声だけが大きく、事実は軽い。

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