第6話:紅梅おばさんと暴露ノート
「富子、どこでこんな変わったお嫁さん見つけたの?」「今どきの若い子は強気すぎるわね。昔なら姑の家訓でしつけられて、すぐに言うことを聞いたのに」。
笑い声の端に、場の火に油を注ぐ軽さがある。
彼女は田所芳江に向き直り、「今は家訓でしつけられないけど、嫁いだら姑が母親、舅が父親。親が子を教育するのは当たり前よ」「これくらいで警察に相談しても注意で終わるかもね、芳江さん」
無邪気に見える言葉ほど、危ういものはない。
田所芳江は同意し、今度は姑と義父をじっと見つめた。二人の顔を天秤にかけるように。
私は本気でやるタイプだが、馬鹿ではない。感情の波に乗らず、事実の足場から動かない。
「この方は……小野寺朱美さんですね。お母さんがよく話してました」。
名前を確認することが、次の一手への導線になる。
六十近くで派手な格好をしている人は、朱美しかいない。香水の匂いは濃く、耳元のピアスがやたらと光る。
「そうよ。あなたのノートに私のことも書いてあるの?」。挑戦するように顎が少し上がる。
「もちろん」。私がノートを開こうとすると、姑が慌てて奪おうとした。私の手元に伸びる指先が、焦りの速さを物語っている。
私は距離を取りながら胸にノートを抱え、テーブルの反対側に下がって読み上げた。
「7月20日。私とお母さんが化粧品を試しに行った時、メイクさんが『お肌が綺麗で、少しメイクするだけで若返りますね』と言った」「お母さんは『私は生まれつき美人なのよ。友達の朱美はいつも厚化粧で、発情した雌鶏みたいに騒いでる。何人もの金持ち男に言い寄られてるって自慢してるけど、結局二年で離婚して三十年以上独身』」「実はその男たちはみんな既婚者で、朱美は食事を数回しただけで自分に惚れたと思い込んでいた。結局みんな彼女を避けるようになった」
口に出して読み上げるたび、部屋の温度が一度ずつ下がる。
私は朱美さんの顔色が青ざめていくのを横目で見た。田所芳江は面白がって傍観している。誰かの秘密が白日にさらされる瞬間を、人は奇妙に見つめてしまう。
私はさらに読み続けた。
「最近、芳江さんが『朱美は毎日うちに来て、掃除や洗濯、料理までしてくれるから助かる』と自慢していた。実は朱美は芳江さんの夫を狙っていた。芳江さんはそれに気づかず、朱美がご機嫌取りしていると思っていた」
言葉が刃物なら、これは包丁だ。切り口がはっきり見える。
「もうやめて!」と姑が私を遮った。
「そんなこと言ってないわ。ノートなんて自分で好きに書けるでしょ」。その必死さが、かえって信憑性を底上げする。










