第5話:録音再生――言質は逃がさない
「あなたのご先祖が本当に旧華族なら、私が先に年始の挨拶をするわ」「証明できるなら私も一緒に挨拶をする」
部屋の空気が一度、ぴたりと止まる。
「あなた……今日こそはしっかり年長者の尊重を教えてやる!」と、田所芳江は私に手を上げようとした。肩がわずかに上がる。その初動で察する。
私はさっと身をかわし、手で制止した。
「芳江さん、これは全部お母さんの同意のもとでやってることですよ」。
感情ではなく、合意の話に戻した。
田所芳江は一瞬固まり、怒鳴った。
「どういうこと?二人で私をからかってるの?」
笑い話にしたいのなら、証拠は邪魔になる。
姑は私の発言に驚き、慌てて弁解した。
「私は何も知らないわよ、芳江、あの子の言うことなんて信じちゃだめよ」。
視線があちこちと揺れて、言葉だけが空を切る。
「本当に挑発じゃないんです」。私はカバンから分厚いノートを取り出し、見せた。
「見てください。お母さんの言ったことは全部記録してます。日時も場所も全部」「記憶より記録です。お母さんと初めて会った時から全部書いてます」「お母さんが認めなくても大丈夫。スマホで皆さんにもお見せできます」
皮肉ではなく、手順の提示だ。
私はノートのページをスマホで撮影してテーブル中央に置き、皆に写真を見せたうえで、会話の録音はスピーカーで再生した。「すみません、少し音量を下げますね」と店員に一言断ってから、必要があれば夫や義父のスマホにも音声データを送った。各自が耳元で聞けるように配慮した。
「6月18日。お母さんが『今日はいい日だから』と私の両親に婚約の話をしに来た。……と、母は言いました」「母はお母さんに『うちの子は細かいことにこだわるから、あまり気にしないでほしい』と伝えた。さらにこうも記録されています」「お母さんは私の手を握り、『玲華ちゃん、こだわるのは良いこと。きっと物事をうまくやりたい気持ちか、何か我慢してるから証明したいんでしょう。いいことですよ』」「『でも安心して。玲華がうちに嫁いできたら絶対に辛い思いはさせません』」「『玲華はうちの長女。家のこともあなたの家のやり方でいい。意見が合わない時はまず玲華のやり方で』」「義父、夫、私の両親もその場にいました。玄関のインターホンの録画や防犯カメラの記録も残っています
事実は温度を下げる。結局、真正面から向き合うしかなくなる。
私は大きな声で一字一句読み上げた。声は震えず、ページだけが軽く揺れる。
その時、パーマの短髪に大きなピアス、濃い化粧の紅梅おばさんこと小野寺朱美が「ぷっ」と笑った。










