第4話:丸の内エリート様と家系図の勝負
それが彼女の決まり文句だと、すぐにわかった。
確かに、地方都市はもちろん、都心でもその給料は珍しい。だから彼女は周囲の同年代の人たちに持ち上げられ、まるで息子が特別な力を持っているかのように思われていた。家でも息子自慢ばかりで、話がどんどん盛られていく。
姑は姉が侮辱されたのを見て、すぐに擁護に回った。
「何言ってるの、早く芳江に謝りなさい。うちの息子と結婚できたのはご先祖様のおかげよ」「本当に旧華族なら、私が先に年始の挨拶をさせていただくわ」
自分の口で先に言った言葉が、このあと自分を縛ることになるとも知らずに。
熱が上がると、理屈なんて吹き飛ぶ。舌先が刃物になるのは一瞬だ。
田所芳江も姑に同調し、「証明できるなら私も一緒に年始の挨拶をする!」と言った。勝負と認めた以上、退路は狭い。
私はゆっくりとスマホを取り出し、家系図の写真を見せた。
「これがうちの家系図です。うちの一族は後に名字を変えたんです」。
これがあれば引かない。喉の力が戻る。私はメモが一番確かだと思っている。
この家系図の写真は、高校時代のルームメイトのおかげで撮ったものだ。私の名字は珍しく、よくからかわれた。そのたびに由来を説明していたが、ある時クラスメイトに「証明できたら私は納豆一気食い、できなかったらあなたが食べる」と言われた。
その日の午後、私は歩いて祖母の家に行き、家系図を撮影した。鎌倉の坂を上り下りしながら、息が切れるのも気にならないくらい、胸の内は静かだった。
証拠さえあれば、どんな罠も怖くない。私には記録が一番の味方だ。
田所芳江は本当に証拠があるとは思わず、息を荒げて今度は姑に矛先を向けた。
「富子、こんなお嫁さんもらって、年長者を侮辱させて、長生きできないわよ」。
怒りの矢先は、いつだって一番近い味方に向く。
姑も怒った。
「玲華、いい加減にしなさい。大晦日に何を騒いでるの」「あなたのご両親はこんな風に教育したの?年長者に年始の挨拶をさせるなんて」
言葉は反射的に出るけれど、数分前の自分の発言を忘れている。
私は口を引き結び、年を取ると記憶力が悪くなるものだと改めて思った。そして、さっきの会話の録音をスマホで再生した。










