第3話:旧華族カード、切ります
姑は私の両手をしっかり握り、目を輝かせて言った。
「いい子ね。うちの将来の幸せは今夜のあなたの頑張りにかかってるのよ」「お母さんもこうやってきたの。だからあなたも素晴らしい夫と結婚できたのよ」「だからお母さんは信じてる。今夜は大変だけど、お願いね」。
掌の温度で、彼女の期待の重さが伝わってくる。
これだけ真剣に言われて、皆の前で断るのは姑の顔を潰すことになる。
心配しないでください。私、やりきります。
約束は約束だ。なら、私の作法で返礼する。
姑が満足げに見守る中、私は素早く席を離れ、主賓席に座っていた義父の前に立った。
「お父さん、立っていただけますか」。
声は丁寧に。けれど一ミリの揺らぎもない。
義父は一瞬戸惑ったが、素直に立ち上がった。彼の眉間に薄い皺が寄るが、反論はない。
皆が驚く中、私はためらいなく主賓席に腰を下ろし、ポケットからスマホを取り出して家系図の写真を掲げた。
「私は旧華族・公家の家系です。うちには百年以上続く伝統があります」
一度周囲の反応を確かめてから、続ける。
「……ですから、今夜の作法の順序も大切です。正式な礼法では、本家筋にあたる私の挨拶が先です。そのあとに主催者のお父さん、次に最年長の田所さんの順でお願いします。皆さん、作法に従ってご協力いただけますか?」
作法は順序が命——その順序を、礼の側へ引き戻す。
田所芳江は椅子から立ち上がり、震える手で私を指さして怒鳴った。
「うちの息子が誰だかわかってるの?ふざけてるの?東京出身でもないくせに旧華族だなんて、戸籍には久我山玲華って書いてあるじゃない!」
声が尖っていて、プライドだけで押してくる感じ。その地方都市で膨らんだ自尊心がそのまま出ていた。
この田所芳江は姑の姉で、私は会ったことがなかったが、夫から何度か話を聞いていた。息子は丸の内の外資系企業で働いていて、年収もかなり高いらしい。そのため、彼女はこの地方都市で自分が一段上だと思っている。
「あなたたち、こんな高い給料見たことないでしょう。うちの息子は東京で働いてるのよ。丸の内のあんな立派なオフィスには、選ばれたエリートしか入れないの」。










