証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく / 第14話:午前四時、雑煮作りという伝統
証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく

証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく

著者: 広瀬 みく


第14話:午前四時、雑煮作りという伝統

部屋に入ると、姑はすぐに寝て大きないびきをかき始めた。寝息のリズムが、あまりにも整いすぎている。

私も簡単に洗面を済ませて横になった。枕元の静けさが、逆に落ち着かない。

しかし、まだ眠りが浅いのに目覚ましが鳴り、何やらゴソゴソと起きる気配がした。そして、誰かが私を激しく揺さぶった。

「玲華!玲華!起きて、早く!」。肩にかかる手が、容赦なく強い。

もう朝になったの?私は不審に思いながら時計を見ると、まだ午前4時だった。闇はまだ夜のものだ。

「玲華、起きて雑煮作り手伝って」。

声は命令的で、優しさの鎧を着ている。

誰が好き好んで午前4時に雑煮を作るの?私は食べなくてもいいと思った。心の中でだけ、つぶやく。

すると姑が続けた。

「うちの伝統で、元日の雑煮はその日に一から出汁を取って作るから、毎年早起きするのよ。冷蔵庫から材料を出して、私は着替えて二人を起こしてくる」。

手順が妙に細かい。

全員で雑煮を作るならいいか、一年に一度だし。そう思って、一度は頷いた。

着替えて洗面を終え、材料を取りに行こうとして、雑煮の具を聞き忘れたことに気づいた。家ごとにやり方が違うから、確認は必要だ。

部屋に戻ると、姑の寝室のドアが閉まっていた。さっきは開いていたはずなのに。嫌な予感が、廊下の空気を冷たくする。

ドア越しに「お母さん、雑煮の具は何ですか?」と声をかけたが、返事がない。夫を呼んで、「ごめん、母さんに声かけて」と頼むと、夫が「母さん、玲華が具を聞きたいって」と廊下から声をかけてくれた。私は礼儀を守り、無理にドアを開けなかった。

中に入ると、姑はすやすやと寝息を立てていた。その瞬間、私は全てを悟った。伝統は、都合の良い作業の別名にされがちだ。

本当に姑には仕事をさせるべきだと思った。起こされてばかりでは、作法の意味がない。

私は部屋の明かりをつけず、廊下から「お母さん、もう雑煮の準備しますよ」と声をかけた。夫にも「母さん起こして」と一言頼んだ。荒いノックの勢いはそのまま、でも礼儀は守る。

姑は目を開け、私を食べてしまいそうな表情を一瞬見せたが、すぐに消えた。

「玲華、帰り道で冷えたのか、体中が痛くて起きられない。今年はあなたに任せるわ」。

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