第12話:ドラレコと防犯カメラの逆襲
義父は電話をスピーカーにして姑に突きつけた。
「富子、あんたが撒いた種なんだから自分で説明しなさい」。
言葉が珍しく真っ直ぐだ。
電話の向こうの人がためらいながら言った。
「富子、何かやらかしたの?市役所から見守り連絡網に情報が回ってるって。民生委員や町内会からも連絡が相次いでるから、早く警察に所在を伝えて」
受話器越しの息が、細く長く、非難と心配を運んでくる。
姑の顔は青ざめたり赤くなったりし、電話を切ってベランダでこそこそ話し始めた。寒風が吹き込む音だけが、遠くから聞こえる。
その間にも夫と義父には次々と電話がかかってきた。皆「お母さんの居場所知ってる?交番から電話があったから、隠れてないで連絡した方がいい」と言ってきた。着信の振動が、テーブルの上で小さく震える。
私は電話の時に自分の名前を名乗らず、姑の名前だけを伝えたので、皆が所在確認=徘徊と勘違いしたのだった。情報の形が、意図せず意味を変えることはよくある。
これで姑も少しは懲りただろう。音の洪水の中に、自分の声が溶ける体験は、耳に残る。
こうして二時間以上電話が鳴り続け、ようやく家の中は静かになった。時計の秒針だけが元のリズムを取り戻す。
姑はソファに座って私を恨めしそうに見ていたが、何も言えなかった。言葉にすれば、自分に返ってくるのがわかっているからだ。
「お母さん、誤解ですよ。スマホが壊れていたから、早く見つけるために人海戦術を使っただけです。交番からの電話で皆が誤解したんでしょう」「でも不思議ですね、私はずっと同じ場所で待っていたのに。車にはドライブレコーダーもありますよ」。
映像はごまかしに厳しい。
姑は口を開きかけて、私の言葉で黙り込んだ。喉の奥で何かが引っかかったように。
しばらくして、姑はおずおずと聞いた。
「じゃあどうすればいいの?皆が私の言葉を信じてくれないし、実家の家族も縁を切るって言ってる」
声が小さくなるほど、助けを求めているのがわかる。
夫と義父は電話疲れで何も言いたくない様子だった。眉間の皺がいつもより深い。
「誤解は解くべきです。私が皆をLINEグループに招待して説明します」。私は新しいグループを作り、こう書き込んだ。










