証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく / 第11話:所在不明通報と見守りネットワーク
証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく

証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく

著者: 広瀬 みく


第11話:所在不明通報と見守りネットワーク

姑が慌てて出てきて、私に気まずそうに笑いかけた。

「玲華、もう帰ってきたの?」

笑顔の端が引きつっている。

「お母さん、早すぎて困るの?」。私の言葉は柔らかく、意味だけが硬い。

「玲華、母さんにどういう口の利き方だ。母さんがご飯を作ってるのに、君は良心がないのか」。夫の声が、無意識に誰かの声色を拾っている。

「誤解よ、誤解。私が年を取って目が悪かったの。玲華、手を洗って。ご飯がすぐできるから、健太ももう言わないで」。姑はゆっくり事態を元の形に戻そうとしている。

私はしつこい性格なので、引き下がらなかった。

「お母さん、誤解は良くないです。さっき外で長い間待ってたけど、どこに行ってたんですか?」

質問は、逃げ場を限定するための糸だ。

「私……年のせいで車がどこにあるか見えなかったの。誤解よ、もうこの話はやめましょう」。言葉の継ぎ目に、躱しが混ざる。

姑はキッチンに戻ろうとしたが、私は腕を掴んだ。

「はっきりさせましょう。帰り道で警察に連絡しました」。

声は低く、内容は重い。

姑は固まった。肩が一度、ぴくりと跳ねた。

スマホが壊れて電話できなかったので、まず交番に所在不明の恐れがある旨を相談し、「徘徊のおそれあり」として見守り連絡網に情報を回してもらいました。そのあと、近くの公衆電話から親戚中に『警察にも相談済みです。皆さんも探してください』と連絡網を回したんです。深夜だったけれど、交番の方が親切で、公衆電話の場所も教えてくれました。

「……」夫が何か言いかけたが、私はすぐに遮った。

「あなたたちには連絡していません。店の後始末で忙しいと思ったので」。余計な火種は避けるのが最善だ。

「警察の方が親切で、所在確認の相談に乗ってくれたり、公衆電話の場所や使い方も教えてくれたりしました」。交番の暖かい蛍光灯の色まで、思い出せる。

私が話し終わる前に、義父の電話が鳴り、表情が険しくなった。

「所在確認?何のことだ?」。声のトーンが一段低くなる。

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