第5話:娘を呪う遺伝子
この何年も、母への期待や愛情はとっくにすり減っていた。今残っているのは、恨みだけ。
真実を知ってから、その悔しさと憎しみはますます強くなった。
もし私が彼女の実の娘じゃなかったら、世の中には私を愛してくれる人がいるって、自分を納得させられたかもしれない。
でも、私は彼女の実の娘なんだ……
私は激しく憎んでいた。
彼女が真実を知った時、もう取り返しがつかないようにしてやりたかった。
私は彼女に永遠に悔やませてやる。生きているのが苦しいほどに。
「この出来損ないの娘! 何やってんの、病院まで騒ぎを起こして、治療費なんてないわよ!」
病室のドアが勢いよく開き、母が騒ぎながら入ってきた。私は薫子さんを見た。彼女は困った顔をしていた。
「さっきあなたが吐血して倒れたから、彼女に電話したの。」
澤子は鼻で笑った。
「吐血して倒れた? 全部演技よ! この子のことはよく分かってる。わざと同情を引こうとしてるだけで、何も問題ない!」
母はベッドに駆け寄り、私を引き起こそうとしたが、突然叫んだ。
「どうしたの? あんた……」
私の顔色は黄色く、唇には血がつき、手には点滴の管がいくつも刺さっている。だけど、母はそれを全然見ようとしない。彼女は私が履いているスリッパだけを見て、怒りながら叫んだ。
「これは鳳桐家のスリッパでしょ、きららが履いてたのを見たわ! あんた、鳳桐家に行ったの? きららに嫉妬して、共通テストを邪魔しようとしたのね!」
その一言一言が、全部予想通りだった。絶望した心はさらに沈んだ。私は顔を背け、何も言わなかった。
澤子はまた手を上げようとしたが、薫子さんに手を掴まれた。
「こんな母親がいるの? 未咲ちゃんは病床にいるのよ、あなたは何も気にしないの? さっき胃がんだと診断されたの、知ってる?」
澤子は一瞬驚き、鼻で笑った。
「胃がん? どうせ嘘でしょ?」
「診断書はベッドの上にある。少しでも気にかけていれば、こんなことにはならなかったはずよ。」
薫子さんは私の診断書を澤子に渡した。彼女は母に、私に優しくなってほしいと願っていたのだろう。でも、明らかに無駄だった。
澤子は診断書をパラパラとめくり、私を見ることなく、薫子さんをちらりと見た。その目には、ざまあみろという色が浮かんでいた。
「私の考えでは——」
澤子は薫子さんの表情をうかがいながら、意味深に言った。
「こんな病気になったのは、あの子の遺伝子が悪いからよ。どうせ末期なんだから、運命に従って治療なんてしなくていいわ。」
薫子さんは我慢できず、声を荒げた。
「何てことを言うの? 未咲ちゃんに申し訳ないと思わないの?」
「どうして私が申し訳ないの? 私は一生懸命、いい縁談をまとめたのよ。田舎の茂さんは片足が不自由だけど、年上だから優しくしてくれるはずだった。謝礼金も決まっていたのに、今は末期がんだと分かって、相手も結婚しないって。私の苦労が無駄になったじゃない!」
薫子さんは唇を震わせた。
「澤子さん、彼女はまだ18歳にもなってないのよ!」
澤子は口元をわずかに上げた。
「若いからこそ、早めに嫁がせるのよ。きららとは違うんだから、何も持ってない。若いうちに嫁がなければ、誰ももらってくれないでしょ!」
薫子さんは怒りで息を荒くした。私は無感動に天井を見つめた。もう慣れっこだった。幸い、私はすでに彼女に期待していなかった。澤子が私を愛することは絶対にない。










