見先、星々の下で──母と娘、二度目の許されない約束

見先、星々の下で──母と娘、二度目の許されない約束

著者: 加藤 海斗


第1話:娘をすり替えた母の告白

あの夜もまた、母にひどく扱われた。彼女がSNSで自慢げに書き散らした投稿を、私はたまたま見つけてしまった。スマホの画面が団地の薄暗い部屋をやたら白く照らして、胸の奥がスーッと冷えていくみたいだった。

「十八年前、私は実の娘と親友の娘をすり替えた。今や私の娘はあの女に育てられ、色白で美しく、賢く育った。一方、あの女の娘は私の元でまともなご飯も食べさせてもらえず、数日後には独身の年寄りに売り飛ばすつもりだ。私は全力で自分の娘をお金持ちの家に押し上げた。彼女が東大や京大に合格したその日、SNSで生配信して『本当の娘を私の元に取り戻す』と宣言する。娘をあるべき場所に戻す瞬間を、全国に見せつけてやる!」

私は静かに投稿を最後まで読んだ。「いいね」ボタンを押したけれど、指先がひどく乾いていて、タップした感触さえよく分からなかった。

母は知らない。私がすでに、こっそり親子鑑定をしていたことを。

彼女が楽しみにしている生配信は、きっと彼女自身の悪夢になる。

一生悔やませてやる。私は心の中で、固くそう誓った。

最初に投稿を見たとき、それが母のものだとは思わなかった。投稿者のアイコンを見るまでは。

真珠とレースで飾られた、小さなウサギのヘアピン。

それは鳳桐きららの十歳の誕生日に、母が手作りして贈ったものだった。

きららは、母の親友の娘だ。

当時、私もそのウサギのヘアピンが欲しかった。

でも、母は私を平手打ちした。頬に走った痛みよりも、心がカラカラに乾いていく音の方が、今でもはっきり覚えている。

「お前みたいな子が、きららと比べられると思うの? きららは賢くてきれいで、本物のお姫様。お前なんて、何者でもないでしょ?」

母が私を愛したことなんて、一度もなかった気がする。

私の名前は「藤宮未咲」。まだ咲かない、未咲。どうせ咲かないって、最初から決めつけられたみたいな名前。

きららは「きらめく星」。希望とか、輝きとか、そういう意味。

名前からして、最初から負けが決まってた。

きららの母でさえ、見かねて母に言ったことがある。

「澤子さん、未咲ちゃんはあなたの実の娘なんだから、もう少しまともな名前にしてあげて。」

でも母は鼻で笑った。

「こいつ? 父親を死なせた不幸者だよ。名前があるだけマシでしょ!」

そしてまた、きららを見て目を輝かせて微笑む。

「やっぱりきららはいい子だね。福があるし、見てるだけで好きになる。きららのために金のロックとブレスレット買ったから、早くつけてみて。」

母は、ありとあらゆる高いものをきららに与えたがった。

昔は、その理由が全然分からなかった。

もしきららが実の娘なら、全部納得できたのに。

でも——

私は鞄の隠しポケットをそっと探った。そこには三か月前にこっそり取った親子鑑定書が入っている。私は確かに母の娘だと記されていた。

じゃあ、あの投稿は何?

考えても答えは出なかったけど、私は鳳桐家に行って、真相を確かめることにした。どこかで、“何かの間違い”を信じたかったのかもしれない。

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