第6話:親友への告白と冬晴れの願い
「もしもし!」私は不機嫌な声で、目も開けずに出た。
「なんで家にいないの?」絵里の声が受話器越しに聞こえた。
私は我慢して聞いた。「何の用?」
「お金、どの口座に振り込めばいい?」
「どこでもいい」私はぼんやりと答え、電話を切ろうとした。
「切らないで!」
私は受話器を少し近づけた。「今度は何だ?」
「なんで家にいないの?」また同じことを繰り返す。私はふとひらめいた。「今、俺の家にいるのか?」
「早く出て行って。この家、もう不動産屋に出してるから、いつ見学者が来るかわからない。離婚したんだから、私の邪魔しないで」
「売るのか?」と私が聞くと、彼女の声は一段高くなった。「この家を売るつもり?」
「売らずにどうする?」
お前はもう帰らないのに。
「今どこにいるの?」彼女は少し真剣な声で聞いた。
「早く寝ろ、絵里」私は我慢の限界で電話を切り、ブロックし、削除した。それでも眠れなかった。
夜が明けるまで目を閉じられなかった。
どれだけ腹が立っても、野村さんに連れられて治療を受ける。故郷では、旧友に会うこともある。
「伊織?」
声の方を見ると、高校時代の親友、石川達也だった。
久しぶりの再会は、やはり昔話になる。
その日は野村さんの許可も得て、久しぶりに外出した。
ラーメン屋を選んだ。
「元気にしてたか?」と、達也はおそるおそる聞いた。
私は笑って答えた。「まあまあ。金はあるけど、命は長くない」
彼は箸を止め、呆然と私を見た。
私は麺を口に運びながら、彼が大粒の涙を流しているのに気付いた。
「おい、どうした?男が泣くなよ」私は慌ててティッシュを差し出し、ちょっと手間取った。
「何の病気?」
私は手を振った。「治らない病気だ。大丈夫、すぐには死なない」
私は窓の外を見ながら言った。「晴れた日に死にたい。冬は寒すぎる」
「頼みがある」外に出て、私は足踏みしながら言った。「誰にも今日のこと、言わないでくれ。それと……たまにでいいから顔見せに来てくれ」
寒風のせいか、彼の目は赤くなった。「うん」
「絵里は知らないのか?」
「うん、離婚した。知らせる必要はない」
達也はそれ以上何も言わず、二人で黙って前を見つめた。
北風が吹きすさび、どんなに良い時も、過ぎ去れば一瞬で消えてしまう。










