第5話:病室のドラマと着信拒否
絵里、私たちはもう……二度と会うことはないだろう。
私は北都総合病院に入院し、あまり真剣に治療を受けなかった。
「18番ベッド!またこっそり点滴を抜いたの?」
腰に手を当てて叱るのは、若い看護師の野村すずさん。仕事がとても手際よく、人を叱るときも……容赦がない。
私は肩をすくめて大人しく叱られた。「治療したくないの?どうなの!」
私は目を泳がせ、半分本気で言った。「この点滴、冷たすぎてさ。小さい湯たんぽ持ってきてくれない?」
彼女は半信半疑だったが、結局可愛いカイロを持ってきてくれた。
「もうこっそり点滴を抜かないで!」彼女は腰をかがめて私に念を押す。「痛くないの?」
私は彼女の目を見て、思わず鼻がツンとした。もう誰も、私が痛いかどうか気にかけてくれる人はいない。
「痛くない、痛くない。野村さん、ありがとう」
痛くないなんて嘘だ。半月も経たないうちに、手は針だらけで感覚がなくなった。夜は痛くて眠れず、点滴台を引きずって院内をうろついた。
深夜の静かな時間帯、ナースステーションには野村さんだけがいて、彼女はカーテンで仕切られたベッド脇に小さなタブレットを持ってきてくれた。ほかの看護師には内緒で、休憩時間のあいだだけ、彼女は泣きながら何かを拭いていた。
私はそっと机を叩いた。「どうしたの?」
「しっ!」彼女は周りを見渡し、誰もいないのを確かめてから私に聞いた。「なんで寝てないの?」
私は点滴台を指して、「眠れないから、ちょっと歩いてるだけ」
彼女は私の顔色を見て、額に手を当て心配そうに言った。「痛いの?」
本当は違うと言いたかったが、なぜかうなずいてしまった。
彼女は私を手招きし、私はカーテンの内側のベッド脇に座り、甘いパンを食べながら彼女と一緒にドロドロの恋愛ドラマを五話も観た。ティッシュを一袋使い切り、夜明けになってようやく彼女に病室へ戻るよう促された。
私は彼女に言った。「次も一緒に観ような。ちゃんとストーリー覚えてるから、先に観ちゃダメだぞ!」
野村さんは笑って「分かった、早く寝て!」と返した。
三度深夜ドラマを一緒に観たある夜、絵里から電話がかかってきた。
「どこにいるの?」
私は野村さんに合図してドラマを止めさせた。「何か用?」
彼女は言葉に詰まり、電話を切った。私の機嫌は一気に悪くなり、むしゃくしゃして、その番号もすぐブロックした。
野村さんは隣でテレビを待っていて、小声で「家族?」と聞いた。
私は手を振った。「家族なんていない。家族はみんな死んだ」
野村さんは携帯を指して「じゃあ、あの人は?」
私は画面を見てしばらく考え、「彼女?きれいな人だよ」
私を愛していない、きれいな人だ。
その一本の電話は、私の生活に何の波紋ももたらさなかった。私は昼寝て、治療し、夜は院内をうろつき、野村さんが当番のときは一緒にドラマを観た。
一週間後、見知らぬ番号からメッセージが来た。
「私をブロックしたの?」
私はその番号もまたブロックした。
絵里は、これまで高飛車に生きてきた。目的を果たすまで絶対に諦めない。せっかく眠れたのに、彼女の連続電話で起こされた。
ああ、そういえば、彼女は昔からお嬢様だった。










