第4話:最後の大喧嘩と別れの背中
「なんでこんなに遅いの?」絵里は不機嫌そうだった。
私はだるそうにあくびをしながら中に入った。
「何だ、離婚に恋人を連れてきて、こっちで離婚したら向こうで結婚手続きか?」私は淳が彼女の後ろでおどおどしているのを見た。
「ちゃんと話して。淳は今日体調が悪いの。後で病院に連れていくから」
私は手をこすり、さらに苛立った。「そうか、じゃあ先に検査に行け。俺は待ってる」
絵里は私を引っ張った。「早くしてよ、面倒起こさないで」
私はその場を動かず、彼女は私を引きずれなかった。「人前で引っ張るな、恥ずかしくないのか?」
淳はまた彼女の後ろで泣き始め、彼女の服の裾をつかみ「喧嘩しないで、喧嘩しないで」と言った。
私は胸がむかついた。「絵里、お前が俺をこんなに傷つけなければ、すぐにでも離婚してやる。今は俺を殴り倒して無理やり手続きするか、さっさと消えろ!」
絵里は顔を真っ赤にして、淳を連れて去った。
私は胸のもやもやが晴れず、近くでバットを買い、手に馴染ませてからタクシーで絵里のマンションに向かった。
マンションの管理会社に電話をかけ、鍵のトラブル対応を依頼した。事前に身分証や物件の登記事項証明書の写し、住民票を「共同所有者である真田絵里の夫・長瀬伊織」として提出しておいたので、管理会社も管理人立ち会いで鍵業者を呼び、名義と本人確認を済ませてからドアを開けざるを得なかった。
私は彼らに礼を言い、部屋の中に入った。
絵里は彼と写真を撮るのが好きらしい。家の中にはたくさんの写真が飾ってある。
卒業後、絵里はいつも忙しく、写真もほとんど撮らなくなった。最初は背中合わせで寝て、やがて別々の部屋で寝るようになり、ついには別居した。絵里が他の若い男を囲い始めて、私はようやく二人の関係が壊れたことを悟った。
ひと通り部屋を見て回り、私は祖母の形見の花瓶をわざと軽く壊した。それは生前、祖母が好きだったもので、私は絵里に贈ろうと買っておいた。だが、人生は思い通りにならず、祖母はあの冬を越せなかった。
良い品だったが、私は絵里に譲った。
だが、それも絵里が小さな恋人を喜ばせるために使った。
「ふん」私はもう迷わず、バットを振り回し、家の中の飾りをすべて粉々にした。
力を入れすぎたせいか、鼻の奥がツンと熱くなり、赤い滴がポタポタと床に弾け落ちていくのが見えた。慌てて顔を上げて袖で血を拭い、うつむき直すと、驚いた淳と怒りに燃える絵里の視線と真正面からぶつかった。
「伊織!」
私はバットを淳の足元に投げ捨て、絵里に一言一言、「明日、区役所で会おう」と言った。
これで気が済んだ。もう一日たりともこの結婚を続けたくなかった。
「伊織、私は本当にもう我慢できない!」絵里は怒りに燃えていた。
また鼻血が出て、私は上を向いて止めようとし、彼女の言葉はもうよく聞こえなかった。
「どうしたの?」絵里が眉をひそめて聞いた。
「熱が出た。お前とその恋人にイライラさせられて」
「絵里、俺ももう我慢できない。さっさと離婚しよう。お前はお前の道を、俺は俺の道を。二度と会うな」
来世でも……もう会いたくない。
胸の奥が焼けるみたいに痛かった。
前回の教訓を活かし、絵里は翌日一人で来た。私たちは一言も交わさずすぐにサインし、印鑑を押して、ようやく離婚が成立した。
絵里は一言も無駄にせず、颯爽と背を向け、振り返ることはなかった。
私は彼女の背中を長く見送った。ふと、昔の冬の夜を思い出した。温かい湯たんぽを彼女の手に渡したとき、彼女は言った。「伊織、行かないで。もう少し一緒にいて」
あの温かい手、あの熱い瞳。何度も冬の夜を暖かくしてくれた。
息を吐き、涙を拭き、東京を離れる車に乗った。










