港区と下町の境界で、罵倒と涙を分け合う私たち

著者: 金子奈々

第8話: 生配信ドッキリと「旦那、何か言ってよ」

恋愛リアリティーショーの合間、私は珀様の仕事に付き添っていた。彼は何でも気に入らないものは毒舌し、私は後始末役。

「そうそう、私が西園寺珀様。あの毒舌してる人とは深い仲……うん、そう、あなたが思ってる通り。」

彼は毒舌しながら突き進む。油っぽいプロデューサーが酒を勧めれば「腹黒すぎ」と毒舌。金儲けだけが目的のマネージャーがスケジュールに口を出せば「金のことしか頭にない」と返す。会社から違約金を警告されると、私に振込用の書類に印鑑を押させようとした。私は手を振って「珀さん、そこまでしなくていいよ」と叫んだ。港区の空気がまろやかになるまで、私はいつも緩衝材だった。

みんな八話分の無駄な恋愛を演じた。第九話、監督はライブ配信形式にすると言った。裏で監督は私に「なずなが番組を壊していると不満の声が多い」と伝えた。分かってる。だから皆で珀様に一泡吹かせることにした。彼がいつもみんなを毒舌するからだ。私は「なんでもいいですよ」と返した。どうせ珀様は誰彼かまわず全員を潰す。

ライブ配信の内容は、男性ゲストが他人のスマホを借りて女性ゲストに電話をかけ、彼女たちの本音を引き出すというもの。北条と琴音は事前に台本を知っていた。珀様だけが知らなかった。私は三流男性タレントのスマホを借りて珀様に電話した。彼は拒否した。コメント：【爆笑、全然出ないじゃん】三度目でやっと出た。

「今日やるの？」

彼「俺たち知り合いか？独身でここに長く住んでるが、昔から言うだろ、“袖振り合うも多生の縁”……って、俺の使い方合ってる？」

「何それ？」と私は思わずツッコミ。間を置いて「ライブやるの？」と聞いた。珀様は詰まって「知らない、ごめん」と返した。コメントは大爆笑。

【死ぬ、腹筋崩壊】

他の二組は台本通りで何の面白みもなかった。終盤、琴音が話し始めた。彼女は清楚で純粋、作り物感のない口調でマイクを握った。

「珀くん、この間はお世話になりました。でも、他に気になる人ができて……」

私はドキッとした。コメントは大盛り上がり。

【誰？早く言って】【私のVIP会員特典で聞けないことがあるの？】【昨日彼女が私の耳元で言ってたよ】【幼馴染ネタ来い】

彼女が言う「珀くん」は頭を抱えて苦笑し、口元で何か毒舌。口の動きは「琴音の母親も本当に……」だった。彼女の視線は私に向いた。私は罰を受ける生徒のように体が固まった。三日間死んでいたより今の方が硬直している。画面に映るより、土に入りたい気分だった。彼女は微笑み「はや……」と言いかけた。珀様がタイミングよく口を挟んだ。

「聞き覚えのある名字だな。俺の番組上のペアも同じ名字だ。」

私はうなずいた。そう、私は早川だ。港区と下町の境目で生きてきた、早川だ。「ペア」という言葉で琴音は言葉を失った。北条は歯を食いしばって無理やり場をつなげた。

「はは、番組上のカップルだよ。今はまだ付き合ってないし、今後どうなるか分からない。」

私はまたドキッとした。私は予感した、珀様がまた暴走する。

「人生がつまらないのか？毎日俺に突っかかって、工場にでも行けば？俺と張り合うな、頭を打つぞ。」

珀様が雇ったサクラも流れを作った。

【爆笑、思わず歌い出した】【なずなはラッパー？】

琴音はまた涙ぐみ、小声で言った。

「なずなさん、その言い方はひどいよ」

珀様は反発心を起こし、唇をかみしめて無邪気そうに私を見た。

「旦那、何か言ってよ。」

私は何も言えなかった。コメントは大爆発。私も爆発した。ライブ視聴者数は指数関数的に増えた。