港区と下町の境界で、罵倒と涙を分け合う私たち / 第5話: 金のチェーンと涙目ヒロインたち
港区と下町の境界で、罵倒と涙を分け合う私たち

港区と下町の境界で、罵倒と涙を分け合う私たち

著者: 金子 奈々


第5話: 金のチェーンと涙目ヒロインたち

私はホテルに滞在し、いつでも珀様の後ろ盾になる準備をしていた。彼は私の再登場をあまり望んでいないようだった。だが一時間後、彼はまた電話をかけてきた。

「ペンダントもサングラスも、服の金のチェーンも外せ。」

きっと口喧嘩で負けたんだろう。北条はいつも皮肉が得意だから。でも私は何も言えない。彼に罵られるのが怖いし、勝てる気がしない。私は罵り合いの世界じゃ、いちばん弱い。私は言った。

「うちの父も昔はこんな格好だったよ。」

「俺はお前の父になりたくない、ありがとう。」

彼が珍しく「ありがとう」と言った。私は中年金持ちのプライドが大いに満たされた。サングラスと金のチェーンを外して再入場した。今度は周りの出演者たちが「かっこいい」と驚嘆した。私は珀様の座り方を真似て座り、一人ずつ黙らせた。周囲の人々はひそひそと、

「白川琴音のために来たんじゃない? 珀様と幼馴染らしいし……」

と噂していた。私はそちらに耳を傾けた。そんな話、聞いたことない。何のゴシップだ? 私も聞かせてよ。でも皆は黙り込んだ。私はちょっと寂しくて、孤立した気分だった。港区のざわめきの中、私だけ下町の音を聞いている気がした。

第一話の収録。案の定、珀様は誰かと口喧嘩を始めた。監督の仕掛けたコーナーは、男性ゲストが用意した贈り物を女性ゲストが選ぶというもの。テーブルには金のチェーン、プログラマーの真っ赤なバラの花束、三流男性タレントの宣伝用ネックレスが並んだ。珀様はその金のチェーンを真っ先に奪った。白川琴音が手を伸ばしたが、空振り。彼女は手を引っ込め、失望の表情で涙ぐんでいた。

珀様は金のチェーンを握りしめて尋ねた。

「これが欲しいのか?」

琴音は頬を赤らめて、恥ずかしそうにうなずいた。珀様は鼻で笑った。

「金目当ての女。」

琴音「?」

北条は微笑みながら珀様に攻撃した。

「なずなさん、そんな言い方はひどすぎるんじゃない?」

珀様は北条が抱えるバラの花束を見て、無差別に攻撃した。

「お前もだ、俗っぽい。」

北条「?」

私「……」

彼はたった二言で三人を敵に回した。体が戻った後のことを考えると恐ろしい。琴音は涙ぐみながら私を見た。私は下を向いて手をいじり、知らんふりをした。珀様は畳みかける。

「なんでこのネックレスは取らない? その男性ゲストに不満でも?」

私は、琴音が本当に泣きそうだと感じた。珀様は私と気が合うのか、顔を覗き込んで言った。

「本当に泣くのか?」

彼女は「わぁ」と泣き出した。よし、今度は本当に泣いた。北条は慌てて琴音をなだめ、珀様は余裕で火に油を注ぐ。琴音は泣き終わると、すすり泣きながら残ったネックレスを手に取った。三流男性タレントの顔は真っ黒だった。監督の「使える、使える」の声が、スタジオの隅で小さく響いた。

第一話は、CMや司会者の無駄話を加えて何とか流された。放送されると、私は予想通りトレンドで叩かれた。珀様はさらに金を使って、私のために二つもトレンド入りさせてくれた。彼は意外と親切で、アフターケアまでしてくれる。#なずなの話し方が面白い##なずな、本当に泣いたの?##なずなと琴音の小学生喧嘩# 北条と琴音のファンは話題の下で罵倒合戦。

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