第3話: 罵倒姫デビューと一〇〇万円の温情
珀様は私の代わりに、昼夜問わず仕事をこなした。私は毎日、体育館みたいな寝室で目覚め、彼とビデオ通話した。彼は毎日仏頂面で、目に危うさが宿っている。一発で他人を壊しそうな迫力だった。
「今、楽屋でメイク中だけど、メイクさんの手つきは壁塗りみたいだ。Fワード連発したくなる。どうやってこの仕事を得たんだ?」
ファンデの色は黄みがかって、ムラもひどい。彼はどんどん顔が消えていくのを見て、眉間にしわを寄せていた。ついに立ち上がって「ピー音案件」を連発。
「現場でセメントでも扱った方がマシだろ。」
私は驚いてビデオ通話で叫んだ。
「怒らないで! これも番組の一部だよ!」
彼は落ち着こうとしたが、そこへ私のライバル・北条エリカが現れた。彼女は完璧なナチュラルメイクで、潤んだ瞳で見つめてくる。
「なずなさん、どうしてそんなにメイクさんにきつく当たるの? 彼女だって大変なんだから。」
私は心の中で焦り、彼をなだめようとした。彼は私の予想を読み切り、ビデオ通話を切った。その日の午後、私はトレンドで自分の名前を見つけた。#なずなは清純ぶる女#
動画の中で、珀様は鼻で笑い、
「清純ぶってもバレる。そんなの、みんな分かってる。」
「それ、力技で隠す話じゃない。」
私は泣きそうになり、冷や汗が止まらなかった。彼の毒舌は、いつも想像の一歩先を突いてくる。
意外にも、コメント欄は私を一方的に叩くものばかりではなかった。人気コメント:【毒舌が上手い、ラッパー界の新星。】【前から彼女の話し方が気になってたけど、ついに言ってくれる人が現れた。】【ネットは記憶がないの? 彼女の家がどれだけ借金してるか知ってる? まだ完済してないのに叩くな!】【彼女は返済のために必死に働いてる! 父親の借金なのに彼女のせい?】
私は感動して涙ぐんだ。人の世にはやっぱり温かさがある。こんなに多くの人が私の味方をしてくれるなんて。……と思ったら、珀様が私に帳簿を見せてきた。彼の会社の広報が動き、サクラを雇い、インフルエンサーに流れを作らせ、100万円を使った。分かった、これは金の力だ。現実は現実、思いは思い。両方を知って、私はまた強くなった。
彼はすっかり自分を解放していた。マネージャーが彼を非難すると、彼は白目をむいて言った。
「そんなのどうでもいい。営業がダメなら会社員でもやれば?」
会社が違約金を警告すると、彼は手をポケットに突っ込み、
「現場では話さない。電話はオフレコだ。」
と言いながら、電話では好き勝手に話していた。私はLINEで事務所から罵倒された。
【調子に乗るな。借金の件、どうするのか今日中に説明しろ。返事は必ずしろ。】
私は涙ながらに彼にメッセージを送った。
私:【少しは自重してよ、珀さん?】
彼:【芸能界は面白すぎる。罵倒してくる人がこんなにいて、最高だ。心配無用。】
私:【……】
私は少し不安になった。何しろ、それは私の体なのだから。港区の空の青さが、妙に薄く見えた。










