港区と下町の境界で、罵倒と涙を分け合う私たち / 第2話: 港区タワマンで目覚めたら男だった
港区と下町の境界で、罵倒と涙を分け合う私たち

港区と下町の境界で、罵倒と涙を分け合う私たち

著者: 金子 奈々


第2話: 港区タワマンで目覚めたら男だった

翌朝、目覚めると私は彼になっていた。体の重さも、声の低さも、全部が自分のものじゃない。

朝、私は全面ガラスの窓辺に立っていた。188センチの視点で吸う空気は、やけに遠い。……落ち着けるはずもない。息が続かない。パニックだ。今日も恋愛リアリティーショーの収録があるのに。手すりを掴んでも心臓がバクバクして止まらない。珀様がそんな低姿勢でバラエティに出るはずがない。違約金はB級映画十本分にもなるのに、どうしようもなく悲観的になる。窓から飛び降りたい気持ちがふとよぎる。高層階の風が強い。私の人生は苦しい。季節は春なのに、涙が止まらなかった。

珀様が私のたくましい腰を抱えて、ぐっと引き止めてくれた。

「落ち着け、何か方法はあるはずだろ?」

私はすすり泣きながら訴えた。

「もうすぐ恋愛リアリティーショーの収録が……」

珀様は歯を食いしばって言う。

「俺が出る。」

私はまた泣いた。

「まだドラマの撮影も……」

珀様はさらに歯を食いしばる。

「俺がやる。」

私は下を向いて手をいじった。

「じゃあ私は何を……」

彼は奥歯を砕きそうな勢いで言った。

「今日は休め。俺が全部回す。」

私は一瞬で元気になった。人の情けに救われるって、こういうことかもしれない。

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