Chapter 4: 第4話:離宮引きこもりと婚約者戦略
蓮を振り切った私は、ほっと息をついた。離宮に戻って一歩も外に出ず、すべての来客を断った。前世の重要な出来事を紙に書き出した。墨の匂いが部屋に満ち、記憶が黒い線になって並んでいく。
ただ、現代で兵法書を読み込んでこなかったのが悔やまれる。本当に本が擦り切れるまで読みたかった。こういう時こそ、知識は刃になる。
数日経っても蓮の消息は聞こえてこなかった。下人に探らせたところ、橘 紗季は結局蓮を連れて帰らなかったらしい。彼女の立場では、軽々しく引き受けられる話ではない。
蓮の父親は賄賂と人命軽視で斬首刑、家族全員が身分剥奪となった。紗季も父の名声があっても、逆賊を家に連れ帰ることはできなかったのだろう。規律は、個人の情を容赦なく踏み潰す。
だがすぐに橘家を見張らせていた者から報告が入った。橘家のお嬢様の傍に、銀の仮面をつけた端整な顔立ちの若者が現れ、常に彼女の側にいるという。仮面は素顔を隠し、素顔は真意を隠す。
私は深く息を吸った。やはり蓮と紗季はすでに知り合いだった。そして彼は私を諦めていない。諦めない男は、執着によってしか呼吸ができない。
私は彼の攻略対象で、もし攻略に失敗すれば厳しい罰を受けるのだろう。私は紙に大きなXを書いた。線を重ねるほど、心は少し落ち着いた。
だがすでに次の策を考えていた。兄皇子に頼み、彼の有能な側近たちを全員私に回してもらった。三人寄れば文殊の知恵、少しは助けになるだろう。人の力は積み重ねれば壁になる。
だが思いがけず、離宮は賑わいを見せ、町では私が昼間から俊才を集めて別館に抱えていると噂された。噂は尾ひれをつけ、真実を面白おかしく塗り替える。
結局、前世で通らなかった道も今世では避けられなかった。運命は路地裏でも、同じ角を曲がらせる。
やがて秋の狩猟の日がやってきた。私は宮中に召され、お父様の慈愛に満ちた顔を見て涙をこぼした。「お父様。」私は丁重に礼をした。礼の作法を教わったことはほとんどなかったのに、不思議と体が覚えていた。
お父様は一瞬驚いた。帝国唯一の皇女として、私は幼い頃から溺愛され、お父様は一度も堅苦しい礼法を強いたことがなかった。涙は少し場違いで、それでも私の心は今、昔よりもずっと重かった。
「咲夜、もうすぐ成人だが、何か考えはあるか?」お父様の声は柔らかく、しかし宮中の空気はいつも少しひんやりしている。
私は戸惑った。「何の考えですか?」質問を質問で返すのは子供の癖だが、今は意図的に時間を稼ぎたかった。
お父様は言い淀み、お母様も横で気まずい顔をしていた。しばらくしてようやく言った。「側仕えが欲しいと聞いたが?」その問いは、私の過去の甘さを思い出させる楔だった。
誰がそんな噂を流したのか?腹の底が冷える。側仕えにまつわる噂は、今の私にとって最も遠ざけたいものだ。
前世、側仕えに害された私が、今さら側仕えを欲しがるものか。甘い飴は、もう舌を麻痺させない。
前世の惨状を思い出し、私は毅然と首を振った。「いえ、現代の受験教材をください。問題を擦り切れるまで解きたいです。」お父様とお母様の前での場違いな願いは、私自身の決意の宣言でもある。
お父様もお母様も転生者ではない。当然、私の言葉の意味は理解できなかった。「やはり町の噂は当てにならない。うちの咲夜は素直で可愛い、そんなことを学ぶはずがない。」お父様の笑いは柔らかい。だが、私はその柔らかさが怖かった。
私は勉強しないわけではない。ただ、前世で痛い目を見たからだ。知識は、運命に打たれる時の盾にもなる。
お父様は続けた。「だが、もう嫁入りの年頃だ。この秋の狩猟で婚約者候補を選ぼうと思うが、どうだ?」言葉が穏やかでも、決定は重い。
やはりこの展開か。前世、お父様とお母様は登用試験の筆頭や武科第一の者たちから私の婚約者を選ぼうとした。だが私は蓮に心を奪われ、断固拒否して側仕えにした。あのときの選択が、すべての歯車を狂わせた。
今世、蓮を避けるには、彼に対抗できる婚約者を選ぶしかない。彼の攻略の望みを断ち切るために。選ぶことが、拒むことでもある。
「咲夜はお父様のご判断に従います。きっと良い夫を選んでくださるでしょう。」私は自分の声の震えを押し鎮めるように、丁重に言葉を重ねた。










