Chapter 3: 第3話:処刑宣告と聖女の横槍
侍女は私の反応を見て、すぐに大声で言った。「古律の文言によれば、逆賊の子が皇族の輿を妨げた場合、市中引き回しのうえ打ち首、あるいは入牢の上、遠島に処すべし、とございます。」今では滅多に執行されないものの、古い条文そのままの苛烈な響きが場を支配した。
「うむ、よし、それでいい。やれ。」私は一切の迷いもなく言った。冷たい言葉は自分への戒めでもある。甘さを捨てる誓いだ。
蓮は驚いた目で私を見上げた。ほんの一瞬、仮面の裏に素の動揺が見えた。
私は嘲笑を浮かべて彼を見た。やり直せるなら、まだ同じ道を選ぶのか?選ぶのなら、先に私が道を塞ぐ。
私が輿に戻ろうとしたその時、背後から女の子の声が響いた。「彼は逆賊の身ですが、皇女様の輿をわざと妨げたわけではありません。この罰は重すぎます。」澄んだ声は風を割り、場の緊張を少しほぐした。
振り返ると、柳のようにしなやかな美しい娘が人混みから現れた。素衣を纏い、髪は木の簪でまとめ、私に対して卑屈でも傲慢でもない態度だった。佇まいに武家の節度が漂う。
私が口を開こうとしたとき、侍女が耳元で囁いた。この女性は当代の将軍家の娘、橘 紗季。幼い頃から父に従い戦場を巡り、最近辺境から都に戻ったばかり。父の功績で特例で華族に復帰し、毎月一日と十五日に街頭で炊き出しを行い、湯気の立つお粥を配って貧しい者を救済している。帝都の民は彼女を女善人と呼ぶ――列の温かさまで噂が語る。
橘 紗季が立ち上がった瞬間から、蓮の視線が彼女に向けられていることに気づいた。息がわずかに止まり、胸の奥がざわつく。
侍女が言わなくても、私は彼女に強い印象を持っていた。なぜなら前世、私の誕生宴で、橘 紗季は剣舞を披露し、多くの名家の子息を魅了した。あまりに目立ちすぎて、宴の後に誰かが彼女に手を出そうとした。彼女は決して屈せず、たまたま通りかかった兄皇子に救われた。その清白を守るため、兄皇子は私に父帝へ頼んで彼女を娶るようにと頼み、橘 紗季は私の義姉となった。華やかな宴の灯が、彼女の強さを照らしていた。
そして橘 紗季が華族に復帰した日、蓮は異常な様子で私の寝殿に現れ、酔った勢いで私を抱きしめ、何度も「咲夜」と呼んだ。初めて会った時から心を奪われていたと。あの夜、耳元で囁いた癖のある言い回しが、紗季に向ける時とまったく同じだった。その熱は、一瞬信じられる甘さを持っていた。
今、蓮が橘 紗季を見る目を見て、私は突然悟った。あの夜の咲夜は、咲夜ではなく紗季だったのだ。私という名を呼びながら、彼は別の女の影を抱いていた。
この瞬間、私は二人を見つめた。前世では橘 紗季が街頭で助命を求めることはなかった。私が自ら蓮を拾わなかったため、紗季と私が早く対立したのだろう。因果は少し形を変え、戻ってきた。
私は紗季を嘲笑して見た。「なるほど、橘家のお嬢様か。では、どうすればよいと思う?」微笑は刃の薄さで、問いは試金石の重さだった。
紗季が口を開こうとしたとき、ずっと黙っていた蓮が突然顔を上げて言った。「この方が助命してくれて感謝しますが、元はといえば奴が殿下にぶつかったのです。当然罰を受けるべきです。」礼儀正しい言葉の中に、冷たさが潜む。
私は二人の間に流れる視線に嫌悪感を覚えた。薄い糸のように絡み合う視線は、やがて太い縄になる。
「橘さんの言う通り、罰は少し重すぎたわ。今日はこの件は水に流しましょう。流刑の者はそのまま護送、わたくしは帰って休む。」私は袖を翻して輿に戻った。引きどころは、見せどころでもある。
紗季は私があっさり引き下がったことに驚き、しばらく街頭で呆然としていた。周囲の民は事情も分からず、紗季を美しく心優しいと褒め称えた。善名は、時に人の背を押す力になる。
「待って……」私は彼女を振り返った。「どうかした?」声の温度を少し落として、彼女の真意を待つ。
「殿下はこのままお帰りになるのですか?」彼女は言った。躊躇の色が瞳に揺れる。
「まさか、逆賊のために詫び状でも書けと?」皮肉の薄刃を忍ばせた。
紗季は困惑した顔で「それは必要ありません……」と言葉を選びながら、口元を引き結んだ。
「橘さんはこの逆賊のために何度も助命しているが、旧知なのか?なら私が主となって彼の逆賊の身柄を保護下に置き、あなたの家に預けようか?」甘い提案に苦みを混ぜたまま差し出す。
そう言って彼女の返事も待たずに決めた。人の選択肢を奪うことが、時に最も残酷な優しさになる。
蓮は驚き、私を見つめた。「皇女殿下……」と、小さく呼ぶ声にいつもの余裕はなかった。
私はすでに下人に急いで出発させていた。輿はゆっくりと動き出し、車輪の音が石畳に低く響いた。
前世、私は蓮をその場で拾ったからこそ、彼は私に近づき側仕えとなった。今世、彼を橘 紗季に与えた。二人がどうなろうと、私にはもう関係ない。縁は手放すことでしか、時に終わらない。










