桜京の城壁から、何度でも君を選ぶ——転生皇女の終わらない夢 / Chapter 2: 第2話:悪役皇女、恋愛脳やめます
桜京の城壁から、何度でも君を選ぶ——転生皇女の終わらない夢

桜京の城壁から、何度でも君を選ぶ——転生皇女の終わらない夢

著者: 伊藤 さくら


Chapter 2: 第2話:悪役皇女、恋愛脳やめます

場面は変わり、戻った先は十六歳の誕生日前だった。皇女の輿に乗り、盛大に街を行進している。鈴の音、紙飾り、沿道の歓声。桜京の秋は、どこまでも華やかだった。

私は元々、現代で怠惰な人生を送り、死ぬまで独り身だった。死後、帝国唯一の皇女となった。お父様とお母様は私を骨の髄まで可愛がった。そして唯一、成人前に離宮(桜の御殿)を賜った皇女でもある。甘やかされて育った私は、愛されることそのものが呼吸のように当たり前だった。

前世で独り身が長かったせいか、犬でさえ美男子に見えた。だから十六歳の誕生日、皇帝陛下に贈り物を尋ねられたとき、私は拳を握って「側仕えが欲しい」と言った。あのときの自分の顔は、今思えば少し滑稽で、少し切実だった。

これは帝国史上初のことで、皇女が婿ではなく、いきなり側仕えを求めるなど前代未聞だった。だが皇帝陛下は私を溺愛していた。すぐに妃選び――いや、側仕え選びを命じた。私の可笑しな願いも、彼にとってはただの娘のわがままだったのだ。

側仕えの多くは没落華族や逆賊の家系で、父親が罪に問われれば家族全員が身分を剥奪される。前世、私が外出したとき、ちょうど蓮一家が辺境に流刑される場面に出くわした。彼は囚人服を着て、やせ細り、乱れた髪が頬に垂れ、兵士の鞭が背後で振るわれていた。体中が血だらけで、その顔は人間離れした美しさと哀愁を帯びていた。彼は私の輿の前で倒れた。世界が、その一瞬彼のために呼吸を止めたように見えた。

私はその美しさに驚嘆し、彼を離宮に連れ帰り、逆賊の子という身分も顧みず世話をした。お父様の答えはこうだった。「咲夜が好きならそれでいい。」どこまでも甘い言葉は、やがて毒にもなる。

だが一歩誤れば、すべてが狂う。これは最初から仕組まれていたことで、蓮は最初から私を利用するために近づいたのだった。運命は優しい顔をして、残酷な罠を仕掛ける。

そして今。私は前世で蓮に出会った時期に戻っていた。輿の帷をめくると、やはり囚人たちの一団が現れた。私は人混みの中から蓮の顔を見つけた。血と泥に汚れた頬の中で、唯一無二の美が光っていた。

この瞬間、過去の出来事が一気に脳裏をよぎる。私は急いで帷を下ろし、侍女に言った。「縁起が悪い。」声は強張り、指先が冷たくて、自分のものではないみたいだった。

侍女は震えながら輿を降り、外に向かって怒鳴った。「無礼者!皇女殿下の輿を妨げる者は、すぐに道を開けよ!」その声は澄み、城下の喧噪を切り裂いた。

囚人を護送する兵士たちは慌てて鞭を振るい、囚人たちを叱責した。「早く皇女様に道を譲れ、さもなくば命がいくつあっても足りないぞ!」荒い息と革の匂いが、秋の空気に混じり合う。

私は窓から外の様子を見ていた。蓮は鞭で打たれ、血まみれで顔色も蒼白、道の真ん中に倒れていた。前世とまったく同じ光景だ。過去が複写されるような既視感に、背筋が冷える。

だが私はもう、色香や同情の心を持たなかった。前世、蓮は敵国に通じ、皇城が陥落した後、大将軍となった。私はかつての情を頼みに命だけは助かると思ったが、返ってきたのは下人の伝言だった。「兵士たちは連日苦戦している。この帝国の皇女を敵将への貢ぎ物として与えよ。」その言葉は刃より鋭く、心の奥をえぐった。

無数の汚い手が私の体を這った。もし誰かが間に合わず兵士たちを斬らなかったら、私は……。思い出すだけで喉が閉まり、吐き気が込み上げる。

私は拳を握りしめ、爪が食い込みそうだった。掌に浮かぶ白い半月が、痛みで赤く染まる。

侍女が報告に来た。「殿下、囚人の一人が道の真ん中で気を失っていますが……」息遣いが早く、状況の重みを理解しているのが分かった。

私は静かに袖を整えた。「担ぎ手に命じて踏み越えて進め。」一切の迷いを押し殺して、言葉にしてみせた。自分の甘さを切り捨てるために。

侍女は目を見開いた。「踏み越えて進め、ですか?!」驚愕は当然だ。だが私は冷えた声で告げる。

「どうした?もう本殿下の言葉が通じないのか?」私はわざと声を大きくした。外の者たちにしっかり聞かせるためだ。虚勢でも、必要な時は鎧になる。

侍女は仕方なく車夫に命じた。私は頬杖をつき、窓越しに倒れた男を見ていた。彼の口元が微かに引きつった気がした。意識は底で揺れ、表面に出ようとしているのかもしれない。

次の瞬間。蓮はうっすらと目を覚し、霞んだ瞳で輿を見つめた。彼は力なく起き上がり、紅い唇をかすかに開いた。「申し訳ありません、皇女様の輿をお騒がせして。すぐに道を空けます。」その口上はみすぼらしくも礼儀正しく、しかし心の奥底の計算は消えてはいなかった。

私は冷笑し、立ち上がって帷を開けて外に出た。跪く蓮を見下ろし、冷たく言った。「顔を上げなさい。」命じる声音は、昔の私とは違う硬さを持っていた。

彼は紙のように薄い体で、鋭い眉、血色のない薄い唇。今、顔を上げると白く滑らかな首筋と震える喉仏があらわになる。ああ、やはり見世物向きの顔だ。美は時に残酷で、見る者の判断を誤らせる。

前世の私は何を考えていたのだろう。私は苛立って侍女に問いただした。「皇女の輿を驚かせた罪、帝国の律法ではどうなる?」感情に任せているのではない。自分の弱さを先に封じるためだ。

前世、私はこの容貌に惹かれ、こんな可哀想な子犬は拾って飼うべきだと思った。だが拾ったのは毒蛇だった。やさしさが、毒牙を養ってしまったのだ。

今世の私は学んだ。先に彼を潰すつもりだ。情けは刃に変わる前に、淡々と切り捨てる。

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