Chapter 13: 第13話:昏睡恋人と白衣の攻略者
目覚めて三日目。私はようやく事情を知った。言葉はゆっくりと積み重なり、現実の形を取る。
五年前、私は恋人とキャンプに行き、喧嘩の末に事故を起こし、二人とも昏睡状態になった。夜の雨、濡れた土、叫び声。断片が、脳裏で繋がる。
時代が進み、科学者は昏睡患者が無意識で眠っているのではなく、別の世界に閉じ込められていると発見した。説明は正確で、少しだけ夢が現実に寄ってくる。
そこで、昏睡患者の夢の中に入り、目覚めさせる医療用VR装置が開発された。「つまり、夢の中に医者が入るってこと?」私が問い返すと、湊は「そう。機械の音はそれだ」と頷いた。機械の音が、希望の音に聞こえた。
私と恋人は最初の実験対象となった。運命の実験台に乗ったのだ。
湊は私の主治医で、自ら志願して私の夢の世界に入った。彼は白衣を脱いで、物語の中に来た。
話を聞いて、少し記憶が蘇った。夢の中の香り、現実の光。二つの世界が一瞬重なった。
私は恋人がいた。事故の時、彼が親友と浮気しているのを知り、激しく喧嘩して事故になった。怒りと悲しみの混合が、あの夜を黒い色に塗り潰した。
「私に恋人がいたって……まさか……」喉の奥が震え、言葉が途切れる。
湊は私の考えを見抜いて言った。「そう、彼が如月 蓮だ。君たち二人の夢は偶然つながってしまい、同時に目覚めさせるのは難しかった。どちらか一人しか目覚めさせられなかった。」言葉の重さは、選択の残酷さと同じだ。
「じゃあ、蓮が消えたから私は目覚められたの?」問いは小さく、痛みは大きい。
湊は多くを語らなかった。「違う。蓮は“出口条件”――たとえば攻略失敗や攻略対象の結婚、本人が自分の過ちと向き合うこと、そのどれも満たせなかっただけだ。君なら分かるだろう。」
私は頷いた。理解は、受け入れとは違うが、最初の一歩になる。
一ヶ月入院し、その間に蓮を見舞ったが、彼は依然として昏睡状態だった。眠る彼の顔は、夢の中の彼のどれでもなかった。
検査とリハビリを経て、家族が迎えに来た。手を握る感覚が、現実の重みを伝える。
私は退院の日、湊を振り返った。「夢の中のことは、現実にはならないの?」問いは怖い。答えはもっと怖い。
彼は何か言いたげな顔をした。唇が動きかけ、目が少し笑う。










