Chapter 11: 第11話:消される攻略者たちと二度目の飛翔
私と湊の大婚の日、蓮も無罪放免となった。空の色が妙に冴えて見えた。
私は紅の宮装を着て湊とともに両親に拝礼した。絹の擦れる音が、厳かな場を優しく満たす。
彼は珍しく真面目な顔で私を慰めた。「心配するな。蓮のミッションが失敗したら、俺は離縁されても構わない。」息が少し詰まった。冗談でも、心はざわつく。
私は呆れて「また今度ね。結婚は遊びじゃないわ。」と返した。軽口は好きじゃない。けれど、この場では必要だ。
侍従が「礼成」と叫ぼうとしたとき、重兵に守られた大殿に蓮が現れた。場の空気が一瞬凍る。
彼はやせ細り、震えながら大殿に上がった。目に迷いと焦燥、二つの影が揺れている。
私は彼が花嫁強奪に来たのかと恐れ、すぐに湊にキスして「礼成!」と叫んだ。声が場を決定づける。
湊はキスされた唇を呆然と撫で、すぐに私を抱きしめた。「殿下、この瞬間を三度待ったんだ。」その言葉は、軽口にしては重すぎた。
私が蓮を見ると、彼の姿はだんだん薄れ、苦しそうに倒れた。輪郭が波紋のようにぼやけていく。
またあの冷たい機械音が響いた。「003号攻略者・如月 蓮、攻略ミッション失敗、まもなく抹消。5、4、3、2、1!」冷たさは淡々と数える。
蓮は完全に消えた。空気が一度、空洞のようになった。
私は深呼吸し、湊に「成功したわ」と言おうとした。口の形を作った瞬間、心が少し浮いた。
だが次の瞬間、彼の体も薄れ始め、波のような模様とコードが浮かんだ。視界がざらつく。
彼は微笑んで私を見た。「ごめん、殿下。俺も攻略者だったんだ。君の悲惨な運命を阻止するのがミッションだった。無事に果たせてよかった。」微笑の裏に、少しだけ哀しみがあった。
「いや!」声が震え、手が伸びる。
私は必死に湊の手を掴もうとしたが、彼は目の前で消えた。指先に残るのは、空気の温度だけ。
皇女の大婚の日、婚約者は皆の前で消えた。本来なら大騒動になるはずだったが、不思議なことに、皆が一夜にして湊のことを忘れてしまった。システムの記憶消去だろう。記憶から抜け落ちた人は、存在しなかったかのように扱われる。
湊が消えて十日。私はぼんやりと過ごした。日が昇り、沈むのを見ているだけで、時間が過ぎた。
三十日目。私は何かに気づき、再び城壁に上がった。潮の匂いがしないのに、胸の奥に波が立つ。
前世、私はここから飛び降りて転生した。冷たい石と、冷たい風。すべてが始まりでもあり、終わりでもあった。前世もここから再起動したのだ。出口はここだ、と自分に言い聞かせる。息を整え、足元の石の冷たさを感じながら、覚悟を決めた。
今、再び城壁に立ち、皇宮と長い街並みを見下ろす。桜京の灯が幾千、夜の海の星のように光る。
私は決然と飛び降りた。足元が消え、世界が滑る。










