Chapter 10: 第10話:地下牢の告白と結婚という最終手段
蓮にとって私はただの攻略対象。この世界は彼にとってただの任務、ゲームに過ぎない。失敗すればやり直せばいいのだ。私の痛みは、彼の再挑戦の材料にされる。
蓮は私を見ると、異常に興奮した。「咲夜」と何度も呼んだ。呼ばれるたび、胸の奥が冷えた。
「私の名を呼ぶな。あなたにその資格はない。」言葉は冷えて、刃のように落ちた。
蓮は傷ついた目で言った。「前世のことを覚えているのか?」問いは期待と恐れの混合だ。
今、彼は敗北した。私も転生を隠す必要はない。「覚えてるわ、全部。どうやって私に近づき、信頼を得て、お父様を殺し、私を敵将の貢ぎ物にしたか、全部覚えてる。」吐き出すほどに、喉が軽くなる。
蓮は目を見開き、立ち上がった。「私はそんなこと指示していない!そんなことできるはずがない!」否定は早く、説得は遅い。
私は嘲笑した。「今さら否定しても無駄よ。あなたの口から真実が出ることなんてない。」彼の言葉の重みは、もう私の心に届かない。
彼は考え込み、何かを言いかけたが、私は遮った。これ以上彼に、私の時間を使わせる気はない。
「諦めなさい。今世は攻略失敗よ。分からないのは、前世で任務を達成したのに、なぜやり直したのか。」疑問は針のように、彼の皮膚を刺すはずだ。
私はこの数日ずっと考えていた。夜の長さが、考えの長さだ。
蓮は攻略者だが、前世で任務を終えたのに、なぜ私と湊は再び転生したのか。誰かが、私たちをもう一度この盤へと引き戻したのか。
蓮はなぜ終わらせず、またやり直したのか。彼の心の底にあるものは、何だ?
私を虐めるのが楽しいのか?吐き出すように問う。
彼は髪に顔を隠し、しばらくして低く笑った。「後悔したんだ。君が死んだ後、やり直したくて攻略ミッションを再開した。もう一度君に会いたかった。」安っぽい言葉も、彼の口から出るとさらに軽くなる。
私は彼を軽蔑した目で見た。湊の言う通りだ。クズ男は本当にどうしようもない。
私を殺してから後悔してやり直すなんて。遅い愛は、愛とは呼べない。
「遅すぎる愛情ほど安っぽいものはない。蓮、攻略者なら攻略者らしく、どんな役にも本気にならないことね。その方がプロらしいし、誰も傷つかない。」冷たく告げて、背を向けた。
私は振り返らずに地下牢を出た。足音が静かに遠ざかる。
去り際、蓮は低く言った。「まだ終わっていない。咲夜、やり直せばまた君を愛させてみせる。」空気の薄さに溶ける言葉だった。
夢でも見ていろ。心の中で吐き捨てる。
地下牢を出ると、逆光の中に湊の姿があった。光が彼の輪郭を薄く縁取る。
私は深呼吸し、彼のもとへ歩み寄った。足元が少し軽くなる。
彼は私の手首を掴み、いつものようににやけて言った。「皇女は俺を利用して捨てるのか。ずいぶんと薄情だな。」軽口は、彼の挨拶代わりだ。
「どっちが利用してるのよ。計略を出したのはあなた、人を捕まえたのもあなた、私はただの道具人よ。」皮肉の中に、少しの感謝が混ざる。
湊は不思議そうに私を見た。「でも同じ寝台で寝たよな。この国の礼法だと、未婚で同衾は大問題だ。皇女は怖くなくても、俺みたいな純情少年には刺激が強いんだよ。」軽すぎる冗談に、思わず笑いそうになる。
純情?少年?言葉の選び方が、一貫してふざけている。
私は彼の口を塞ごうとしたが、彼は私を胸元に引き寄せた。鼓動の音が近くなる。
「皇女、俺のこと嫌いか?」耳元で低く囁く。
「嫌いよ。しかも今は婚約者を選ぶ気はない。」冷たさを保つのは、自己防衛だ。
「じゃあ、いつその気になる?」問いの軽さが腹立たしい。
私は微笑み、声を冷たくした。「少なくとも蓮が完全に消えるまでは。」心の中で、扉を一枚閉める。
湊は言った。「なら、もっと俺が必要だな。蓮の攻略対象は君、君が結婚しない限り彼のミッションは失敗にならない。」計算は冷静で、結論は鋭い。
私は驚いた。「どうして分かるの?」問いは、半分確かめ、半分頼る。
「攻略系のゲームってだいたいそうだろ。攻略対象が他の人と結婚したら、攻略者は消される。」と、呆れるほど分かりやすい理屈を言う。
「だから皇女、結婚しようか?うちは嫁入り道具もたくさんあるぞ。」冗談めかして言いながら、目は真面目だ。
湊の言う通りだ。私が結婚しない限り、蓮は失敗にならない。結婚が、唯一の終わりの印だ。
しかし、決定的な証拠の密書が偽造だとされ、蓮に冤罪を晴らす者まで現れた。一夜にして、私と湊が苦労して集めた証拠はすべて覆された。見えない手が盤面をひっくり返した。
きっとシステムが蓮のために無理やり筋書きを修正したのだ。物語は、人の手を離れるときがある。
私は仕方なく湊の提案に従い、皇帝陛下に湊との婚姻を願い出た。できるだけ早くと頼んだ。決めることが、守ることにつながる。
皇帝陛下は疑問に思いながらも、溺愛する娘のために承諾した。庁舎の灯が一つ、静かに増えた。










