木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度 / Chapter 7: 第7話:壊された部屋と初めての反抗
木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度

木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度

著者: 稲葉 圭吾


Chapter 7: 第7話:壊された部屋と初めての反抗

私は起きてコンビニでおにぎりを買い、寮の建物に戻ったところ、和真から突然電話がかかってきた。

「相原、どこにいてもいいから、今は寮に戻るな。

トレンド入りも収まりかけてたのに、あのバカ二人が学校名を晒しちゃった。今ごろ寮でお前に文句を言いに来てるはずだ」

声の端が荒い。急いでいるのが伝わる。

和真の言葉が終わるや否や、ドアが内側から開かれた。

机の上はめちゃくちゃで、彫刻刀も見当たらない。

ベッドもアクリル絵の具をぶちまけられ、まるで事件現場のようだった。

足がすくむ。心の中で、何本もの線が切れた音がした。

大野浩(おおの ひろし)は腕を組み、顔は歪んだ表情でいっぱいで、隣の佐藤渉(さとう わたる)は青竹のようにすらりとして、冷たい目つきだった。

「ほら、言った通りだろ、こいつだ」

視線は獲物を見る目。何度見たことか。そのたびに息が浅くなる。

大野は一歩前に出て、片手で私の襟を掴んだ。「学校がこのことを知ったら、お前は退学だと思うか?」

そう言いながら拳を振り上げ、私の顔に向かって殴りかかった。

現実には退学なんて簡単にはないはずだ。それでも、脅しの言葉は体を固まらせる。

一瞬で、私は子供の頃に路地裏で殴られていた記憶がよみがえった。

私はぎゅっと目を閉じたが、予想した痛みは来なかった。

呼吸が戻るまでに、一拍あった。

目を開けると、神谷が大野の拳をしっかり握り、恐ろしいほど冷たい顔をしていた。

神谷は目線を鋭くして、大野を睨みつけた。「二度と手を出すな。次は警察呼ぶぞ」

声は低く、静かな怒りがこもっていた。目の奥が氷のように冷たい。

聞いた話では、神谷が前の同居人と喧嘩した相手の一人は大野の友人だった。

神谷が本気で暴れたらどうなるか、大野が一番よく知っているはずだ。前回は学生課にこっぴどく叱られて、しばらく噂になった。警察沙汰寸前だ。

場は混乱し、私は急いで神谷を引っ張って外に出た。

彼の手は傷だらけで、関節は真っ赤だった。

「すぐに病院行こ。保険証、ある?」

私は彼の手を軽く握り、焦っていた。手が震えて、息も上ずる。

薬箱の場所を尋ねる前に、心臓が先に走っていた。

顔を上げると、神谷はじっと私を見つめ、大きな手で私の手を包んだ。

「相原、うちに薬があるから、落ち着いて」

言葉が柔らかい。空気が少し、ぬるくなる。

そのとき初めて、自分が取り乱していたことに気づいた。少しやりすぎたかもしれない。

なぜ人の手を握る?心の中のもう一人がすぐに反論する。親友同士なら手を握るくらい普通だろう?

頭の中で言い合いが始まり、足はもう動いていた。

私は神谷の影を踏みながら、心の葛藤を終え、足は正直に彼の家のドアをくぐっていた。

「何ぼーっとしてるんだ?手当てしてくれるんじゃなかったのか?」

彼の少しの苛立ちも、私には安心材料だった。

私は彼から薬箱を受け取り、少しずつ傷の手当てをした。

木彫りをしているときによく怪我をしていたので、今も手に無数の傷跡がある。傷の手当ては慣れていた。

消毒液の匂いが鼻にしみる。包帯の巻き方は祖父仕込みだ。

「相原」

包帯を巻き終えたとき、神谷が突然名前を呼んだ。

今日二度目だ。

顔を上げると、私たちはこんなにも近くにいた。

息が触れ合う距離。視線がぶつかる。

心臓が早鐘のように打ち、神谷も同じなのだろうか?

でも神谷はこう尋ねた。「大野が手を出したとき、なぜ避けなかった?」

核心を突かれる。答えは簡単なのに、言いたくない。

私は唾を飲み込んだ。どう説明すればいいのだろう。

勝てない相手には、抵抗するより大人しく殴られて、相手がつまらなくなれば自然と離れると思っていた。

「俺が役立たずだと思った?」

どうせ昔から、そんなふうに罵られてきた。

でも神谷の前でこの一面をさらけ出すと、顔が熱くなり、こんなに情けなくなるとは思わなかった。

自分で自分を笑いたくなる。けれど笑えない。

しばらく返事がなく、私は服の裾を引っ張って帰ろうとしたが、手首を強く掴まれた。

「それ、彼氏に言われたのか?」

私は一瞬戸惑い、神谷が言っているのがトレンド入りした相手だと気づいた。

答える前に、神谷は私を座らせた。「お前は役立たずなんかじゃない。反抗するには勇気がいるけど、我慢すればそのうちよくなると思ってるんだろ?

でも相手は、お前が我慢すると思ってるからこうするんだ。

相原、お前は本当にバカだ」

言葉は厳しい。でも、優しさの形をしていた。

私は神谷を見つめ、しばらく呆然としていた。

祖父はいつも「我慢しろ」「譲れ」と言うだけだった。

神谷だけが、「なぜ反抗しないんだ、バカだな」と言ってくれる。

その一言で、世界の見え方が一歩変わる。

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