木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度 / Chapter 6: 第6話:トレンド後のファンと消えた同室者
木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度

木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度

著者: 稲葉 圭吾


Chapter 6: 第6話:トレンド後のファンと消えた同室者

和真は夜に予定があり、私が寮に戻ると神谷はいなかったが、机の上には最新型のスマホが置いてあった。

数万円もする。祖父の月の生活費の半分くらいだ。

値段の桁が、現実の重さを思い出させる。触れる指がためらう。

私は写真を撮って神谷に送ったが、うっかり手首の赤い痕も写ってしまった。

昨夜、神谷に強く掴まれ、タコのある手のひらで何度も擦られた。

痕の赤さが、自分の弱さみたいに目立つ。

私はすぐに写真を消したが、神谷からLINEが来た。【あげるから受け取って。ここ最近の宿泊代だと思って】

私は何度も断ったが、神谷はそれ以上返信してこなかった。

沈黙は、頑固さの形でもある。

シャワーを浴び終えた頃、彼から半時間前に送られてきたリンクを見つけた——

【要注意!潜在的DV男の8つの兆候!】

私は彼のアイコンをつつきながら、こんな自虐はないだろうと思った。

笑えるはずの冗談が、少し刺さっていた。

トレンド入りしたことで、今日はファングループが特に賑やかだった。

ファンの中には、私と神谷の二次創作小説を書く人まで現れた。

私は開いてみて、壊れたスマホ越しに顔がどんどん赤くなった。

【もう我慢できないの?震えないで、これは君が自分で彫ったんだよ】

【これいらない?じゃあ自分で選んで。選んだら後悔しちゃダメだよ】

【……】

言葉が生々しい。読み進めるほど、胸の奥に熱が落ちる。

私は布団を噛みながら、お腹が少し熱くなるのを感じた。

恥ずかしい。けれど、嫌ではない。それが余計に恥ずかしい。

夢中で読んでいると、管理人「L」がグループ内の二次創作小説をすべて削除した。

さらにグループ名の前に【みんなで楽しく、マナーを守って】と付けた。

管理の手が早い。火消しの仕方が、上手かった。

まるで正反対の世界になった気分だった。

画面の空気が一瞬で変わる。私は取り残される。

私は「L」のアイコンにメッセージを送った。【私もみんながやりすぎだと思うから、二次創作小説、一部だけでも送ってもらえない?】

「L」はすぐに外部リンクを送ってきた——

【驚愕!恋愛依存のリスク、読んだ後も彼氏を作る勇気ある?】

はいはい、送ってくれないのね。

私を怒らせるなんて、綿にパンチしたようなものだ。

空振りばかりして、自分でも笑えてきた。

私は布団を噛みながら眠りにつき、また神谷の夢を見た。

でも今回は、映像が映画のように変わっていた……

場面が滑らかに切り替わり、私だけが取り残される。目が覚めても、息が荒い。

夜明け前、私はトイレに駆け込み、帰ってきて空っぽの寮を見て初めて、神谷がもう戻ってこないことを実感した。

気分はどん底で、つま先立ちで神谷のベッドの枕を抱きしめた。

一晩中私を抱きしめておいて、朝にはいなくなるなんて、せめて枕くらい使わせてもらってもいいだろう。

小さく怒りながら、枕を抱いてぐっすり眠った。

枕の匂いに、ミントが微かに残っていた。それだけで、安心した。

今回は神谷の夢ではなく、祖父と一緒に木彫りをしている夢だった。

祖父は大した能力はなかったが、あちこちで家具を作り、父を結婚まで育て上げた。

でも、母が私を妊娠した年、町に大雨が出て、父は自ら志願して災害ボランティアに行き、帰ってこなかった。

私が五歳のとき、大雨の日に山から皮のついたお守りが流れ着き、父の遺骨がようやく見つかった。

その「皮」は革袋のことだった。地元の消防団や役場の人に付き添われて、町内会長が家まで届けてくれた。あの日の土の匂いは今も忘れない。

町内会長が手の骨を家に持ち帰った日、祖父は庭で一日中お守りを彫っていた。

私もその日から、本格的に木彫りを学び始めた。

小さな手で、硬い木に祈りを刻む練習を始めた。

最初に彫ったのも、お守りだった。

彫り目は曲がっていたが、祖父は笑って頷いた。形よりも気持ちだ、と言った。

祖父は学がなかったが、お守りが役に立たないとは言わず、彫る数が足りず息子を守れなかったと悔やんでいた。

祖父の性格もその頃から柔らかくなった気がする。

昔はいじめられると一緒に抗議に行ってくれたが、その頃からはあまりかばってくれなくなった。

守るやり方が変わったのだ。怒鳴るより、祈る人になった。

夢で枕を濡らし、目覚めるとひどく空腹だった。

涙の塩気が、口の中に残っている。身体は正直で、腹が鳴った。

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