木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度 / Chapter 12: 第12話:Lの住所と最初の波
木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度

木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度

著者: 稲葉 圭吾


Chapter 12: 第12話:Lの住所と最初の波

心が乱れ、彫刻刀で木材を削り続けた。

そういえば、彼は私の最初のファンの一人だった。

中学三年のとき、初めて配信を始めたときから彼はいた。

そのとき配信ルームは三人しかいなくて、誰かが入ってきたのでIDを呼んだら、逆に驚いて逃げられた。

でも私は気にせず、シナノキの板に波を彫っていた。

彫刻刀が上下し、波が次第に形になり、水色の塗料の下には薄い白が重ねられていた。

遠くから見ると、本物そっくりだった。

丸一日彫って、伸びをしたとき、配信がまだ続いていることに気づいた。

「L」は一度去ってまた戻り、丸一日私の配信に居座っていた。

私は面白い人だと思い、当選リンクを送った。

返事はなかった。

「さっきの波の木彫りが当選品だよ」と言うと、すぐに受取住所を送ってきた。

その代わり、彼は私の初代ファングループの管理人になった。

でも彼は忙しいのか、最近になってようやく活発になった。

私の木彫りを買い、恋愛事情を気にし、ファングループの二次創作を没収し、学校名が晒されたときも最初に拡散防止の告知を出してくれた。

これら全てが、実は神谷の仕業だったのか?

私はぼんやりして、彫刻刀の力加減を誤り、指を切ってしまった。

「どうして指サックをしてないの?動かないで、薬箱取ってくる」

手の痛みはもう感じなかった。私は神谷の服の裾を掴んだ。

「行かないで、聞きたいことがある」

私は今まで神谷に、なぜ私の配信を見ながら悪いことをしたのか、なぜ私を好きになったのか、尋ねたことがなかった。

怖かった。聞きたくない答えが返ってくるのが怖かった。

和真は「この世界は思ったより複雑だ」と言っていた。

一時の新鮮さや刺激を求めるだけの人もいる。愛は長続きせず、ただの麻酔剤に過ぎない。

私と神谷が同棲していると聞いたときも、彼は「自分を守れ」と言っただけだった。

私は神谷がひざまずいて手当てをしてくれるのを見て、膝で彼の足を小突いた。「まだ答えてない。どうして私を好きになったの?」

神谷は下を向いたまま言った。「君が送ってくれたメッセージ、全部見たよ、なでなで」

私は手を握りしめ、じっと彼を見た。

「なぜみんなが君を『なでなで』と呼ぶか分かる?

君は気づいてないかもしれないけど、毎回何かを彫り終えると、その頭を撫でるんだ。本当にその子たちが君のそばにいるみたいに」

彼の言葉で、過去の時間が暖かい色に包まれるようだった。

「両親が離婚したとき、毎日君の配信を見ていた。君は彫刻刀を持って黙々と作業していた。

初めてうっかり顔を出したとき、背後にはお守りが壁一面にかかっていて、風が吹くとざわざわと音がした。

相原、あんな目をした人を初めて見た。澄んでいて、強くて、でも優しかった」

そのときのことは、なんとなく覚えている。

祖父とお守りを彫っていたとき、スマホの位置がずれて、彫り終えた瞬間にカメラが自分を映していた。

でもそのときはファンも少なく、気にしていなかった。

まさか、神谷が全部見ていたとは思わなかった。

私は崩れ落ちそうになり、彼の胸にすがりついた。

誰にも気にされなかった日々が、誰かに大切にされていたなんて。

神谷は私の前髪をそっとかき上げ、額にキスをした。

「相原、君は自分がどれだけ大切か、全然分かってないみたいだ」

神谷が私を駅まで送ってくれるとき、なかなか離れようとしなかった。

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