木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度 / Chapter 11: 第11話:好きだけど、お金がない
木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度

木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度

著者: 稲葉 圭吾


Chapter 11: 第11話:好きだけど、お金がない

大勢の前でカミングアウトを強いられても、私は泣かなかった。

体力で勝てない大野と取っ組み合いになっても、私は泣かなかった。

でも神谷が「俺がいる」と言ったとき、急に鼻の奥がツンとした。

彼の胸に飛び込もうとしたが、彼は突然身をかわした。

「まだ一つ、話していないことがあるよね?」

私は空振りし、虚しく彼を見つめた。

「今日、俺を避けてたのは、俺と一緒にいたくないから?」

まるで冷水を頭から浴びせられたようだった。

私は慌てて顔を上げた。「違う、私は……」

神谷はまだひざまずいたまま、強引に私の手を握った。

「じゃあ誓って、俺を愛してるって」

今となっては、全ての気持ちを隠しきれなかった。私は手を振りほどき、でも声は小さくなった。

「す、好きだけど、でも神谷、私、お金がない」

本当は何度も頭の中で考えてきたことだった。

私は神谷が好き。彼の自由さ、恐れを知らず、いつも私の後ろに立って支えてくれるところ、一歩ずつ勇気をくれるところが好きだ。

でも、私は何も持っていない。

彼が気軽に出す口止め料は数万円。私は小猫を箱いっぱい、いや十箱作っても足りないかもしれない。

今日という日は、もうどうでもよくなって、一気に言った。

「私は配信で木彫りを売って、月に三万円くらいしか稼げない。奨学金と寮費免除で生活費は抑えてるけど、食費は学食定期と自炊で月二万円くらい。木材代を引いた残りは全部祖父に送ってる。祖父は年金暮らしで、医療費や公共料金の支払いもあって厳しいから」

「君と付き合っても、何もしてあげられない」

神谷はしばらく黙っていたが、突然体を起こし、頭を私の胸に埋めた。

「相原、小猫を彫って俺を養うつもり?」

自分で言う分には平気だったのに、神谷に言われると、なぜか無性に恥ずかしい。

「い、意味はそうだけど、ちゃんと聞いてる?」

「もう俺のこと好きにならないで、神谷」

言い終えて、すぐに後悔する。時間の巻き戻しはできない。

神谷は肩に頭を乗せ、息が首筋にかかり、くすぐったい。

「嫌だ。君が俺を好きなのに、俺が君を好きになっちゃいけないなんて、そんなの不公平だよ」

「本当にそれで公平だと思う?」

私はキスされて頭が真っ白になり、思考も彼に引っ張られていく。

これが公平なのか、分からない。

ただ、あの夜、揺れる夜の中で彼を掴みたいと強く思った。

月が木の梢にかかる頃、私はただ、神谷があの二次創作小説を見ていないことだけを願った。

そうでなければ、私は本当に終わってしまう。

お尻が痛くて、翌朝は早く家に帰った。

ドアを開けて、まだ仕上げていない注文があったことを思い出した。

あのトレンド入り以来、私はしばらく配信をしていなかった。

配信ルームに入ると、本人がはじき出されそうになった。

【なでなで!やっと帰ってきた!恋愛に夢中で私たちのこと忘れたかと思った!】

【前の人、なでなではキスされてぼーっとしてただけで、仕事はちゃんとやってた、超絶仕事熱心なんだから】

【前は同居人って言ってたけど、二人って案外お似合いだよね?】

コメントの例えに苦笑する。まあ、ノリはいつもの掲示板だ。

私は彫刻刀を手に、適当にみんなとおしゃべりした。

言葉は少なめに。手の方が饒舌だ。

「L」は最近、波の木彫りを注文してきた。かなり前のデザインだ。

私は手元の波が徐々に形になっていくのに集中し、神谷が帰宅しても気づかなかった。

彼は夜の冷気をまとい、私の胸に潜り込んできた。

私はびくっとして、手元を強く削りすぎ、慌てて彼に手を離すよう合図した。

ところが彼は引かず、カバンから防刃指サックを取り出して、私に手招きした。

私は画面をちらっと見て、最速で手を差し出した。

私の道具は本当はシンプルで、端材と万能ナイフがあれば十分だった。

今では神谷が買ってくれた大小さまざまな道具が山積みになっている。

私は指サックをはめてカメラに戻ると、やはりすぐに気づかれた。

【おやおや、この木彫りの天才くん、前は痛くても絶対に防刃手袋しなかったのに?】

【分かってないな、恋人ができたら違うんだよ。自分は気にしなくても、気にしてくれる人がいるんだから】

トレンド入りしてから、コメントはますます自由奔放になった。しかも神谷が隣で見ている。

私は顔が真っ赤になり、最後の一刀を終えるとすぐに配信を切った。

「どうした?サイズ合わなかった?特注で作ってもらったのに」

この張本人は、無邪気な顔で私を見ている。

彼の顔を前にすると、私は怒ることができない。

私は下を向いて彫り続けた。「すごく使いやすいよ。ただ、ここを深く削りすぎたから、作り直さないと」

神谷は一瞥して言った。「波はもともと深さがまちまちなんだから、誰も気にしないよ」

そう言われても、私は気が咎めた。

神谷がシャワーに行っている間、私は「L」とのLINEを開いた。

【ちょっとトラブルがあって、発送が二日遅れそうだけどいい?】

「L」からは返事がなく、上にスクロールすると、前回は二次創作小説を頼んだときだった。

【前の受取住所、私と同じ学校だったから、作り直したら直接寮に届けようか?】

たぶん「受取住所」という語に反応して、ショップの自動応答ボットが誤送信したのだろう。以前の配送先がそのままチャットに貼り付けられた。

チャット欄に定型返信が流れ、過去に入力された宛先が自動で表示されてしまった。

名前も電話番号も仮名のようで、住所は桜並木町3-6-8。

あれ、桜並木町3-6-8?

私は勢いよくドアを開け、廊下の冷たい風に身震いした。

なぜここなのか?

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