数字に刻まれた夜、沈黙の証人 / Chapter 8: 第8話:燃え落ちた邸と地下研究室
数字に刻まれた夜、沈黙の証人

数字に刻まれた夜、沈黙の証人

著者: 片山 恭


Chapter 8: 第8話:燃え落ちた邸と地下研究室

九条邸が火事になった。

捜索令状が下り、警察が到着する前に、空高く炎が上がった。

消防は全力で消火したが、火勢は強すぎた。

九条家の邸宅は一夜にして廃墟となった。

地下も含めて。

安全が確認されてから警察が入ると、一階書斎の机の下の隠し扉は開いていた。

火は下から上へ、木製の階段はすでに焼け落ちていた。

ロープを伝って降りると、下は焼け跡だらけだったが、そこに広がる空間に圧倒された。

未焼失の実験器具や分離装置、冷凍室、高温室、解剖室。まるで小さな研究所だった。

さらに奥へ進むと、灰の中に骨の残骸が現れた。ここには火事の前から複数の遺体があったことは明らかだった。

「どうして火事になったのか分からない。」

「隠し扉?知らない。あれは息子の書斎で、私は普段二階にいる。」

「下に遺骨がある?そんな恐ろしいことが、息子と関係あるのか?」

「鳴海陽子?うちのお手伝いさん?覚えていない。そんな細かいことは妻が担当している。うちはお手伝いさんをよく替える。」

「ネットの動画?知らない。私は関心がない。たぶん彼女が溺れて、息子が助けているのを誤解されたのだろう。」

「目撃者?私が殺人をしたのを見た?冗談だ。毎日忙しいのに、お手伝いさん一人殺す暇などない。」

「私が君を殺したと見たと言われても、本当に殺したことになるのか?一方的な証言に何の証拠がある?私は君たち全員が殺人したのを見たと言えるぞ、お前も、お前も、お前も!」

九条厳一郎は、取り調べの警察に向かって一人ずつ指を差し、完全に無実を装った。

火事の騒ぎは大きく、地下の遺骨が全て焼け尽くすことはなかったが、証拠を消すには十分だった。

絶対に認めない。

何を聞いても「知らない」「分からない」。とぼけて、責任を押しつける。

九条厳一郎には優秀な弁護士チームがついていて、警察の小さなミスを見逃さず、勾留延長に異議を唱え、釈放を求めて手続きを重ねる。

「今は私の息子が殺されたのだ。なぜ息子の惨殺を調べず、私を調べる?私が自分の息子を殺して家を焼くはずがない!」

「これは明らかに犯人の仕業だ。視線をそらそうとしている!」

「私は毎年多額の税金を納めている。君たちのような無能な者たちを養うためじゃない!」

九条厳一郎の言葉はひどかった。

特に、地下にあれだけの骨があるのに彼を有罪にできる証拠がないことを皆が知っているため、警察は一刻を争って現場を徹底的に調べ、何かを見つけようとした。

「全部焼けた?」

私は笑った。

九条厳一郎のこの火事で、彼の罪だけでなく、息子のバラバラ死体の痕跡も消えた。

彼が火をつける前に、解剖台の上に息子が残したものがあったかどうかは分からない。

「高級マンションの入口の監視カメラでは、九条家に誰も戻っていないことが映っていた。九条厳一郎は火事が起きて30分後に連絡を受けて戻った。」

「監視カメラは、いちばん信用しちゃいけない。」

私は皮肉を込めて言った。

「少し改ざんされただけで、神のごとく信じる。鳴海陽子失踪の時も、監視カメラでは彼女が11時にマンションを出た後に行方不明になったことになっていたが、実際には数時間前にすでに死んでいた。」

「死んだ人がどうやってマンションを出るの?監視カメラって、ほんと滑稽。」

この章はVIP限定です。メンバーシップを有効化して続きを読む。

あなたへのおすすめ

嘘を食べる朝、顔だけを愛した夜
嘘を食べる朝、顔だけを愛した夜
4.9
LINEの通知音が静かな部屋に響くたび、胸の奥に棘のような違和感が広がる。彩香は、顔だけを愛した彼氏・如月柊の違和感を、ふとした瞬間に見逃さなかった。兄弟の影、重なる嘘、そして誰にも言えない夜。港区の高層ビルと下町の小さな部屋、二つの世界を行き来する彼女は、やがて自分だけの逃げ道を選ぶ。愛と計算、演技と素顔、その狭間で最後に残ったものは何だったのか――。 それでも、朝の光に滲んだ微笑みは、本当に自由だったのだろうか。
十年目の夜、捨てられた子猫のように
十年目の夜、捨てられた子猫のように
4.9
十年という歳月を共にした恋人が、ある夜に裏アカウントで自分への本音を吐露していたことを知った大和。湾岸マンションの夜景も、キャンドルディナーも、指輪も、全てが静かに崩れていく。年の差や社会的な壁を乗り越えようとした日々、幼い恋人・陸のわがままも、涙も、すべて抱きしめてきたはずだった。しかし、偽りの愛と、すれ違う孤独が積もり、二人は静かに別れを選ぶ。札幌の冬、東京の会議室、そして暗いビジネスパーティーのトイレ——再会のたびに残る痛みと、触れられない距離。最後に残ったのは、捨てられた子猫のような自分自身と、彼のいない朝の光だけだった。それでも、もう一度だけ彼を愛してもよかったのだろうか。
証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく
証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく
4.7
初めての大晦日、夫・健太と共に佐伯家へ帰省した玲華。親族の集まりで、姑・富子やその姉・芳江から押し付けられる「しきたり」と、地方特有の空気に戸惑いながらも、玲華は自分の家系と記録へのこだわりで静かに対抗する。証拠を積み重ね、感情に流されず淡々と事実を示す玲華の姿は、やがて家族の空気を変えていく。年越しの騒動と朝の雑煮作りのなか、互いの距離が少しずつ揺れ動く。紙袋の温度や紅白歌合戦の音が、静かな年の終わりを照らす。二人の時間は、これからどこへ向かうのだろうか。
木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度
木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度
4.8
蛍光灯の下、木彫りの作業台に向かいながら、静かな寮の一室で配信を続けていた相原直。幼い頃から孤独と向き合い、木に祈りを刻むことで日々を乗り越えてきた。新たな同居人・神谷陸との距離は、最初は冷たく、時に痛みや誤解も重なったが、少しずつ互いの孤独に触れ、手の温度が心を溶かしていく。SNSでの騒動や、身近な偏見に晒されながらも、二人は小さな勇気を積み重ねてゆく。年越しの夜、灯りと祈りが交錯し、静かな祝福が胸に降りる。二人の時間は、これからも波のように続いていくのだろうか。
夜の檻がほどけるとき、娘の微笑みは戻るのか
夜の檻がほどけるとき、娘の微笑みは戻るのか
4.8
夜の大宮、何気ない家族の時間が、一通のLINEで崩れ始めた。コスプレを愛する娘・美緒の無垢な日常に、ネットの悪意が静かに忍び寄る。父と母は、守るために倫理を越え、罪の闇に手を染めていく。家族の絆、すれ違う信頼、交差する他者の欲望と嫉妬。その果てに残された沈黙は、やさしさか、それとも終わりなき罰なのか。 本当に守りたかったものは、何だったのだろうか。
君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離
君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離
4.6
目覚めた時、隣には四年間密かに想い続けてきた天宮先輩がいた。複雑な家同士の思惑、オメガへの分化、消せないマーキングと心の傷。帝都防衛アカデミーでの絆は、静かに、そして激しく揺れる。家族や政略の重圧の中、雨の夜に交わされるひとつの傘、残された言葉、遠ざかる背中。雪原の爆発と拘置区の壁の向こうで、二人の距離は今も測れないまま。最後に彼の手が頬に触れたとき、心は何を選ぶのだろうか。
凌雲橋のほとり、消えぬ魂と約束の夜
凌雲橋のほとり、消えぬ魂と約束の夜
4.9
霞が関地下の異能者行政「高天原」で働く神代 蓮は、三年前の祝賀会でかつての仲間四人と再会した。西域遠征を経て戻った彼らは、かつての面影を失い、それぞれが異なる痛みと秘密を抱えていた。葛城の精神の謎、猿渡の失われた感情、猪熊の静かな死、沙川の慟哭——すべては霊山会と特務機関、そして見えざる上層部の策謀に絡め取られてゆく。心の奥に残る疑念と嫉妬、別れと再会の記憶。組織と己の間で揺れる蓮は、仲間とともに運命に抗い、最後にはそれぞれの選択を静かに受け止めていく。月明かりの下、すべてが終わったはずの夜に、再び小さな灯りが揺れる——それは本当に終わりなのだろうか。
十年分の空白と、約束の夏が遠くなる
十年分の空白と、約束の夏が遠くなる
4.7
十年分の記憶を失った俺の前に、幼なじみであり妻であるしおりは、かつての面影を消し、冷たい視線を向けていた。華やかな都心のマンション、豪華な暮らし、しかし心の距離は埋まらない。ALSの宣告と、戻らない過去。しおりの傍らには、見知らぬ男・昴が立つ。交わしたはずの約束は、現実の波に流されていく。あの日の夏の笑顔は、もう二度と戻らないのだろうか。
嘘の夜、塔の頂
嘘の夜、塔の頂
4.7
田舎の閉ざされた学園で守られた“俺”は、東京の編集者として生きながら、マドンナ・美咲と兄貴分・大吾に絡む嘘と恩の糸に引き戻される。過去の暴力事件と未解の一夜、そしてギャンブルで崩れかけた家族――守りたいものと裏切れない人の間で、彼は自分の弱さと向き合い、小さな灯りを絶やさないと誓う。真実に触れた瞬間、次の章で彼を待つのは港での再会と新たな告白だ。
禁断の夜、25という女
禁断の夜、25という女
4.8
初めて出会った女性・25に心を奪われた大卒の青年。福岡の夜、危険なヤクザとの対峙や、癒えない孤独と欲望の間で揺れ動く。彼女の本当の名前も過去も知らぬまま、青年は自分の限界を試されていく。