Chapter 5: 第5話:鳴海親子と九条家の闇
第四の殺人事件はなかなか起きなかった。
もちろん、犯人も捕まらなかった。
湊が高級マンションを出た後、監視の死角で足取りが途絶えた。
796の被害者は共通テスト後、一人で家にいた。外出した形跡はなかった。
再び現れたときはバラバラの遺体で、遺棄場所の監視もなかった。事件現場の不審者も特定できなかった。
唯一の手がかりは、桐島悠と一緒にグループを離脱した二人だった。
一人は明らかに関係がある同級生の間宮結衣、九条家の隣人。
もう一人は鳴海櫂人、大学一年生で、桐島悠とグループ旅行以前に接点はなかった。
だが、この二人はまるでこの世から消えたように、全く見つからなかった。
警察は間宮結衣の周辺から調査し、小指のデータを照合したが、間宮雫とは関係がなかった。
法医学の鑑定では、小指の年齢は40~50代の女性だった。
最後に、警察は鳴海櫂人に目をつけた。
鳴海櫂人は一年前に失踪届を出していた。母親の鳴海陽子だ。
だが、その時は家族のDNA採取がされておらず、鳴海櫂人が見つからない限り直接確認できなかった。
しかし新たな手がかりが出て、警察は一年前の何でもない失踪事件を再調査した。
すると、鳴海陽子はかつてある被害者の家で働いていたことが分かった。失踪前日までいた。
その被害者は九条湊だった。
「鳴海陽子は2023年7月23日に失踪し、その前日まで九条家で住み込みのお手伝いをしていた。」
「当時の記録では、鳴海陽子は23日夜11時に仕事を終えて九条家を出た後、行方不明になった。外で働いていた鳴海櫂人が二週間後に失踪届を出した。」
「その期間、君は間宮結衣の家で家庭教師をしていた。教えていたのは彼女の妹・間宮雫で間違いないか?」
今回は、土門刑事が食事を持ってきてくれた。私は彼の話を聞きながら食べ、少し考えてうなずいた。
「うん、結衣は私を気の毒に思って、金がないのを知っていたから、妹を教えてくれと頼んできた。焼き鳥屋でバイトするより稼げた。」
「鳴海陽子に会ったことは?」
「ある。」
私の素直な返事に、土門刑事は驚いた。「それで?」
「それだけ。会っただけ。」
土門刑事は黙り込んだ。
彼が私のご飯を奪いそうな気がした。
私は慌てて二口ほどかき込み、正直に言った。「私は間宮家でバイト、彼女は九条家。隣同士だけど、葉山の独立した家で庭もあるし、接点なんてない。ただ見かけただけ。」
「どうやって見た?」
「怒鳴り声が聞こえたり、物がぶつかる音がしたり、時には庭で誰かが転倒する影が見えたこともあった。雫の部屋の窓から九条家の庭が部分的に見えるし、窓を開ければ大声も聞こえる。」
「何度も?」
近所でも噂になっていて、何度か通報も入った。でも警察が来ても一時的に静まるだけで、すぐぶり返した。
「鳴海櫂人は知っていた?」
「知らない。」
「鳴海櫂人を知っているか?」
「知らない。」
「本当に?」
「本当。」
「今回は若年性認知症じゃないだろうな。」
「たぶん。」
今回は本当にご飯を奪われた。
幸い、ほとんど食べ終わっていた。
土門刑事は空の弁当箱を持ってドアへ向かったが、ドアノブに手をかけてまた振り返った。「鳴海陽子の失踪は九条家と関係がある。」
問いではなく、結論だった。
「かもね、調べてみれば?」
土門刑事はそのままドアを開けて出て行った。










