数字に刻まれた夜、沈黙の証人 / Chapter 16: 第16話:796点の犯人と自殺の贖い
数字に刻まれた夜、沈黙の証人

数字に刻まれた夜、沈黙の証人

著者: 片山 恭


Chapter 16: 第16話:796点の犯人と自殺の贖い

土門刑事は私に驚いたようだった。

しばらく何も言わなかった。

私はうつむいた。「私が罪人だと思うでしょう。私がいなければ雫は死ななかった。私が彼女を殺した。」

「その時なぜ通報しなかった?」

「通報して何を言う?私が殺した?強制されて殺した?証拠は?自首して捕まっても、真の悪人はどうなる?それに……」

「それに?」

「湊に脅された。彼が雫を殺せるなら、結衣を殺すのも簡単だ。」

「全部話してもいいが、湊は狂人だ。結衣を危険にさらすわけにはいかない。私は一人を殺したが、二人目は殺せない。」

「だが、雫が失踪した日、高級マンションの入口の監視カメラには彼女が出ていく姿が映っていた。なぜ九条家にいた?」

「鳴海陽子も同じように出ていったじゃないか?」

「地下の白骨の中に、どれだけの人がこうして運び出されたと思う?」

「監視カメラは九条家にとって最強のアリバイだ。」

「少し技術があれば、監視映像は簡単に改ざんできる。逐次分析しない限り、編集や人物の追加・削除は分からない。」

「毎回大量の監視映像を確認する警察は、特殊な事情がなければ逐次分析などしない。九条家はその隙を突いた。」

土門刑事の顔はどんどん険しくなった。「技術班に再分析させる。湊が事件の日、君も同じように監視を避けたのか?だから湊だけが外出したように見えた?」

「違う。私はずっと金をもらってそんな汚いことをする人間とは取引しない。もし本当に協力してくれたら、後で裏切られる危険がある。そんなリスクは負わない。」

「じゃあ湊は?」

「自分で戻ってきた。私の警報が鳴ったから。」

「警報?」

私は服をめくり、腰に巻かれたスマートバンドを指差した。「ここにGPSタグ付きのバンドがあった。今は私が外した。範囲を設定できて、外れるとバンドが大音量のアラームと強い振動を発し、私はその音と振動に追い立てられるように動けなくなる。湊にもスマホに通知が届く仕組みだった。」

「共通テスト後、私の行動範囲は彼の家に限定されていた。出ると警報が鳴る。その日、彼が外出して間もなく警報が鳴り、彼は近道して塀を越えて戻ってきた。」

「塀を越えた?」

「うん。九条家の左後方にクライミングロープを吊っていて、正門より早く戻れる。警報が鳴るタイミングを計算して、必ず塀を越えて戻る。私のバンドもその壁の方に移動していた。」

「湊はよく塀を越えていた?」

「最初に私をこっそり家に連れ帰るときは、塀を越えることが多かった。家族に見つからないように。」

「なぜこっそり……」

土門刑事は途中で何かを思い出したようで、言葉を飲み込んだ。

「君と湊、なぜ……そうなった?彼に強制されたのか?」

「自分からではないと思う。」

「そういう意味じゃない。ただ、想像できなかった……」

「私も想像しなかった。」

「……」

「高級住宅街はプライバシー保護のため、入口以外に監視カメラがない。君の言う左後方の場所は、隠しカメラにも映らない。左側にも門があるのに、なぜ動画では右側の回廊から湊を引きずっている?全く映らずに済むのに、なぜ?」

「そうだね、なぜ映ってしまったんだろう。もし私なら、絶対に映らない。」

「?」

「もう一度よく見て。それ、本当に私?」

私は腕を伸ばし、手のひらを返した。土門刑事はようやく異変に気づいた。

動画で右側の回廊から湊を家に引きずる人物は、ずっと背を向けていて顔が分からないが、左手に包帯を巻き、人差し指がなかった。

「あれは私じゃない。相良蓮だ。」

「相良蓮?796の被害者、相良蓮?」

「うん。796の被害者、相良蓮。湊を殴ったのも、引きずったのも、殺したのも、バラバラにしたのも、遺体を遺棄したのも彼。犯人は彼、私は違う。」

「星名!何を言ってる!相良蓮が犯人なら、自分で死ぬのか?」

「自殺だ。」

「自殺?」

「うん。自殺した後、鳴海櫂人がバラバラにして遺体を捨て、注意を引いた。」

「鳴海櫂人?その時すでに戻っていたのか?」

土門刑事は気づいた。「つまり鳴海櫂人は早くから戻っていて、北海道にいたのは間宮結衣だけだった。二人がずっと一緒にいたという誤った情報を作り出したのか。なるほど、ではなぜ相良蓮は自殺した?」

「私たちは無関係な人を巻き込みたくなかった。でも湊と桐島悠だけでは注目を集められない。注目が集まらなければ九条厳一郎は逃げられる。」

「保険のため、事態を大きくし、世論の熱を高める必要があった。」

「相良蓮は自ら繋ぎ役になることを望んだ。彼は贖罪したかった。」

「何の罪を?」

「彼は私の家族を死なせた。」

……

この章はVIP限定です。メンバーシップを有効化して続きを読む。

あなたへのおすすめ

嘘を食べる朝、顔だけを愛した夜
嘘を食べる朝、顔だけを愛した夜
4.9
LINEの通知音が静かな部屋に響くたび、胸の奥に棘のような違和感が広がる。彩香は、顔だけを愛した彼氏・如月柊の違和感を、ふとした瞬間に見逃さなかった。兄弟の影、重なる嘘、そして誰にも言えない夜。港区の高層ビルと下町の小さな部屋、二つの世界を行き来する彼女は、やがて自分だけの逃げ道を選ぶ。愛と計算、演技と素顔、その狭間で最後に残ったものは何だったのか――。 それでも、朝の光に滲んだ微笑みは、本当に自由だったのだろうか。
十年目の夜、捨てられた子猫のように
十年目の夜、捨てられた子猫のように
4.9
十年という歳月を共にした恋人が、ある夜に裏アカウントで自分への本音を吐露していたことを知った大和。湾岸マンションの夜景も、キャンドルディナーも、指輪も、全てが静かに崩れていく。年の差や社会的な壁を乗り越えようとした日々、幼い恋人・陸のわがままも、涙も、すべて抱きしめてきたはずだった。しかし、偽りの愛と、すれ違う孤独が積もり、二人は静かに別れを選ぶ。札幌の冬、東京の会議室、そして暗いビジネスパーティーのトイレ——再会のたびに残る痛みと、触れられない距離。最後に残ったのは、捨てられた子猫のような自分自身と、彼のいない朝の光だけだった。それでも、もう一度だけ彼を愛してもよかったのだろうか。
証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく
証拠としきたりの間で、静かな大晦日に溶けていく
4.7
初めての大晦日、夫・健太と共に佐伯家へ帰省した玲華。親族の集まりで、姑・富子やその姉・芳江から押し付けられる「しきたり」と、地方特有の空気に戸惑いながらも、玲華は自分の家系と記録へのこだわりで静かに対抗する。証拠を積み重ね、感情に流されず淡々と事実を示す玲華の姿は、やがて家族の空気を変えていく。年越しの騒動と朝の雑煮作りのなか、互いの距離が少しずつ揺れ動く。紙袋の温度や紅白歌合戦の音が、静かな年の終わりを照らす。二人の時間は、これからどこへ向かうのだろうか。
木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度
木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度
4.8
蛍光灯の下、木彫りの作業台に向かいながら、静かな寮の一室で配信を続けていた相原直。幼い頃から孤独と向き合い、木に祈りを刻むことで日々を乗り越えてきた。新たな同居人・神谷陸との距離は、最初は冷たく、時に痛みや誤解も重なったが、少しずつ互いの孤独に触れ、手の温度が心を溶かしていく。SNSでの騒動や、身近な偏見に晒されながらも、二人は小さな勇気を積み重ねてゆく。年越しの夜、灯りと祈りが交錯し、静かな祝福が胸に降りる。二人の時間は、これからも波のように続いていくのだろうか。
夜の檻がほどけるとき、娘の微笑みは戻るのか
夜の檻がほどけるとき、娘の微笑みは戻るのか
4.8
夜の大宮、何気ない家族の時間が、一通のLINEで崩れ始めた。コスプレを愛する娘・美緒の無垢な日常に、ネットの悪意が静かに忍び寄る。父と母は、守るために倫理を越え、罪の闇に手を染めていく。家族の絆、すれ違う信頼、交差する他者の欲望と嫉妬。その果てに残された沈黙は、やさしさか、それとも終わりなき罰なのか。 本当に守りたかったものは、何だったのだろうか。
君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離
君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離
4.6
目覚めた時、隣には四年間密かに想い続けてきた天宮先輩がいた。複雑な家同士の思惑、オメガへの分化、消せないマーキングと心の傷。帝都防衛アカデミーでの絆は、静かに、そして激しく揺れる。家族や政略の重圧の中、雨の夜に交わされるひとつの傘、残された言葉、遠ざかる背中。雪原の爆発と拘置区の壁の向こうで、二人の距離は今も測れないまま。最後に彼の手が頬に触れたとき、心は何を選ぶのだろうか。
凌雲橋のほとり、消えぬ魂と約束の夜
凌雲橋のほとり、消えぬ魂と約束の夜
4.9
霞が関地下の異能者行政「高天原」で働く神代 蓮は、三年前の祝賀会でかつての仲間四人と再会した。西域遠征を経て戻った彼らは、かつての面影を失い、それぞれが異なる痛みと秘密を抱えていた。葛城の精神の謎、猿渡の失われた感情、猪熊の静かな死、沙川の慟哭——すべては霊山会と特務機関、そして見えざる上層部の策謀に絡め取られてゆく。心の奥に残る疑念と嫉妬、別れと再会の記憶。組織と己の間で揺れる蓮は、仲間とともに運命に抗い、最後にはそれぞれの選択を静かに受け止めていく。月明かりの下、すべてが終わったはずの夜に、再び小さな灯りが揺れる——それは本当に終わりなのだろうか。
十年分の空白と、約束の夏が遠くなる
十年分の空白と、約束の夏が遠くなる
4.7
十年分の記憶を失った俺の前に、幼なじみであり妻であるしおりは、かつての面影を消し、冷たい視線を向けていた。華やかな都心のマンション、豪華な暮らし、しかし心の距離は埋まらない。ALSの宣告と、戻らない過去。しおりの傍らには、見知らぬ男・昴が立つ。交わしたはずの約束は、現実の波に流されていく。あの日の夏の笑顔は、もう二度と戻らないのだろうか。
嘘の夜、塔の頂
嘘の夜、塔の頂
4.7
田舎の閉ざされた学園で守られた“俺”は、東京の編集者として生きながら、マドンナ・美咲と兄貴分・大吾に絡む嘘と恩の糸に引き戻される。過去の暴力事件と未解の一夜、そしてギャンブルで崩れかけた家族――守りたいものと裏切れない人の間で、彼は自分の弱さと向き合い、小さな灯りを絶やさないと誓う。真実に触れた瞬間、次の章で彼を待つのは港での再会と新たな告白だ。
禁断の夜、25という女
禁断の夜、25という女
4.8
初めて出会った女性・25に心を奪われた大卒の青年。福岡の夜、危険なヤクザとの対峙や、癒えない孤独と欲望の間で揺れ動く。彼女の本当の名前も過去も知らぬまま、青年は自分の限界を試されていく。