Chapter 13: 第13話:逃げ場なき親友ごっこ
彼が突然トレイを持って私の前に座ったとき、私は彼が見ていたことを悟った。
彼は私が窓辺にいたことを知っていた。
狂人だ。
湊は笑いながら命令するタイプの狂気だ。
彼は私が見ていたことを全く恐れず、逆に堂々と私に携帯を出せと言った。
私は携帯を持っていなかった。
湊は私の持ち物を漁った。
同級生たちは、湊が私の机の中身を乱すのを見て不思議がった。
なぜ私がこの天才と関わるのか、誰も理解できなかった。
湊は私の持ち物を全部調べても何も見つからなかった。
彼は笑った。
私の肩を抱き、親しげに言った。
「悲しいよ。君を親友として家に招いたのに、どうして私の物を盗むの?」
「一万円もしないけど、それは父が出張で買ってきてくれたお土産だ。星名、物を返してくれれば、また親友だよ。」
私がどうして突然湊の親友になったのかより、皆は私が天才の物を盗んだことに憤っていた。
一万円は湊にとっては何でもない。
だが私にとっては大金だ。
貧乏な私が一万円の物を盗むのは当然だと、皆は思った。
湊の一言で、私は泥棒になった。
湊は毎日私を訪ね、皆に私たちは親友だと言った。物は返さなくていい、困っているのだろうと、皆の前で一万円札を私に渡した。
私は拒否し、金は床に散らばった。
皆は私が恩知らずだと言った。
逆に湊は金を拾い、私に謝った。
私の気持ちを考えなかったと、絶対に怒らないでくれと言った。
天才が私に謝るなんて、私はさらに恩知らずになった。
皆の目には、私は本当に湊の親友になったようだった。なぜ湊が私を気に入ったのか、皆には理解できなかった。
湊は暇さえあれば私を訪ねてきた。同級生たちは冗談めかして言った。「そんなに仲がいいなら、同じクラスでいいのに。毎回行き来するのは面倒だろう。」
湊は特進クラスで、私たちとは別の校舎だった。
特進クラスの生徒は学力選抜で、理事長や有力者の子弟が多く在籍し、校費留学や企業連携プロジェクトなど、将来のリーダー育成を目的としたプログラムも組まれていた。公式には学力重視だが、空気の序列は明確だった。
成績だけの生徒は進学クラス、その次が普通クラス。
進学クラスと普通クラスは同じ校舎だった。
私と間宮結衣は進学クラスだった。
同級生の冗談が湊にヒントを与えたようだった。「そうだね、同じクラスならいいのに。」
湊の目は皮肉でいっぱいで、意味深な言葉を残して去った。
間宮結衣が近寄ってきた。「いつから湊とそんなに親しくなったの?」
高三前の最後の夏休み、学校は一か月早く自習室を開放し、実際は夏期講習だった。任意参加だが事実上必修で、欠席が続くと担任から保護者に連絡が入った。
間宮結衣は海外のサマーキャンプから戻ったばかりで、私と湊の間に何があったか知らなかった。
彼女は小声で注意してきた。「湊の本性は知っているでしょ。距離を置いたほうがいいよ。」
距離を置いたほうがいい。
私もそうしたい。
九条家で殺人があったと通報したいが、あの曖昧な動画だけでは何もできなかった。
なぜなら、あの女性が生きているかどうか分からなかったからだ。
九条家はまたお手伝いさんを替え、悲鳴は相変わらずだった。
間宮雫によれば、お手伝いさんはみな耐えられなくなって辞めていったという。
だから、あの日プールから引きずり出された女性は、仕事に耐えかねて辞めたのか、それともすでに死んでいたのか、私は確信できなかった。










