君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離 / 第5話:黒猫と継母への宣戦布告
君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離

君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離

著者: 本田 陸


第5話:黒猫と継母への宣戦布告

「あなた……」彼女は幽霊でも見たような顔になった。

「次にまた猫をちゃんと管理できなかったら」私はゆっくり言った。「保護団体にも通報するし、人に怪我をさせたら法的措置も取る。」

如月さゆりは唇を噛み、周囲を見回したが、召使いたちはどこにもいなかった。さっき皆に外に出てもらったのだろう。執事が医師を門で通しているのか、父の血圧測定も進んでいるようだ。

「父親に助けを求めるつもり?」私は笑った。「さっき書斎を出たときに医者を呼んでおいた。父親は今、血圧を測ってる最中だから、今行けば遺産や爵位の話になるかもね。」

如月さゆりはお腹を押さえて後ずさった。「私はあなたの母親よ、あなた……」

「母は一人だけ、四年前にこの屋敷で心臓発作で亡くなった。」

「でも安心して、今は法治国家だ……」私は突然笑って言った。「一つだけ伝えておく。

もう如月家の親戚のオメガを僕の部屋に送り込まないで。あれは汚れものを僕の茶碗に突っ込むような真似だ。

次やったら、証拠を集めて警察に人身売買で通報する。週刊誌にも如月家の実態を流す。」

稲妻が走り、如月さゆりの蒼白な顔を照らした。

天宮先輩は雨の中で私を待っていた。

私は雨に濡れながら天宮先輩の傘の下に駆け込むと、彼は私の額の雨粒を拭ってくれた。

天宮先輩のうなじにはインヒビターパッチが貼られていた。

これは貴族の間では、既婚オメガの印だ。

しかも天宮先輩は一番目立つサイズのものを選んでいた。

まるで隠そうとしつつも、周囲に何があったかを暗に示しているようだった。

私は我慢できずに彼にキスをした。

だが天宮先輩は咄嗟に私の動きを遮った。

彼は驚いて私を見上げた。

私の先輩は、いずれ私の番になる人。

でも彼が私に抱くのは同情だけで、愛ではない。

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