第2話：消せない印と家同士の取引

天宮先輩は慌てた。

特に私が熱い涙を一粒こぼした時、彼はさらに動揺した。

先輩はベータだった頃、よく上着のボタンを半分だけ留めて僕たちにパワードスーツの操縦を指揮していた。

風が彼の上着の裾をめくり、締まった細い腰が覗く。

周囲の羨望の視線にも全く気付かない人だった。

今、私の涙を見て、天宮先輩はどうしていいかわからず、手を伸ばしかけては止まり、視線が泳ぐ。二人ともほぼ裸なので、触れることもできず、逃げようと身を引きかけるが、やはり心が痛むのか、その場を離れられない。

結局、天宮先輩は苦しそうに絞り出した。「泣かないで、ゆっくり考えよう。」

やっぱり美しい。

慌てて服を着る仕草まで、可愛い。

先輩は手早くすべての服を着終え、私に上着までかけてくれた。

「もう少し休んでいて。誰も来ないから。」天宮先輩はドアノブに手をかけ、曇った表情で言った。「ちょっと話をつけてくる。」

私は顔を彼の上着に埋めた。

レモンの爽やかな香り、それが彼のフェロモンの匂いだ。

堪能する暇もなく、私は先輩に一人で全部を背負わせるつもりはない。

階下に降りると、天宮先輩が父親の襟を掴んでいた。

「それでも人の親なんですか？」先輩は暗い顔で絞り出した。

「全部お前のためだろうが！」

「ベータから二次分化してオメガになった！これからどうやって帝都防衛アカデミーでやっていくんだ？今の皇都の政局は混乱してる。如月家と繋がれば、うちの家族も出世できるんだぞ！」

男の目はぎらぎらと光り、昨夜私に飲み物を差し出した時と同じ目だった。

「先輩！」私は叫びながら階段を駆け下りた。

最後の一段で足を滑らせると、天宮先輩はすぐに父親を放り出して私を支えてくれた。

「天宮さん、私は如月家では肩身が狭いだけの人間です。」私はゆっくりと言った。「母は何年も前に亡くなり、父はすでに再婚して、継母は最近妊娠したばかりです。」

「冗談はよしてください、あなたは如月家唯一のアルファの息子ですよ！」

男はへつらいながら言った。「昨夜は事故でした！でもうちの家は必ず責任を取ります！」

「継母の子は、医者の見立てではほぼ間違いなくアルファだそうです。」私は静かに告げた。

男の顔色が一瞬で変わった。

天宮先輩は私の手をしっかり握った。