君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離 / 第14話:鎖を外す手と危うい取引
君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離

君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離

著者: 本田 陸


第14話:鎖を外す手と危うい取引

宮庁拘置区はハイテク機器もなく、陰鬱で古めかしい。

天宮先輩は手を後ろで縛られ、壁際に正座していた。

私を見ると、目が一瞬だけ明るくなった。

だがすぐに、何の感情もない表情に戻った。

「回復は順調だ。医者によれば、医療カプセルで三ヶ月もあれば背中の傷はすべて消えるそうだ。」私は車椅子で天宮先輩の前に進んだ。

「辛いものは控えて。」天宮先輩は言った。「執事に食事を管理させて、激しい運動も……」

「天宮先輩。」私は彼の言葉を遮った。「なぜ僕を殺さなかった?」

天宮先輩は黙っていた。

「あの夜、雪原で爆発の炎の中、僕は置き去りにされた――二時間もあれば凍死していたはずだ。でも君は僕を殺さなかった。すぐに止血して、近くの闇医者に運んでくれた。」

「僕が生き延びたのは全部君のおかげだ。」

天宮先輩はまたもや黙った。

私は無理に答えを求めず、許可証の鍵を取り出して壁の鍵穴に差し込んだ。天宮先輩の手首の鎖が外れた。

「蒼真皇女が僕に依存しているのを知ってるなら、それを国のために利用すればいいのに。」

私は天宮先輩のこわばった手を自分の頬に当てた。

「先輩、蒼真皇女には僕が必要だけど、僕が必要なのは君だけだ。

君は僕を使って何でもできる。この国をもっと良くすることだって。」

私は目を細めて笑った。

天宮先輩は呆然と私を見つめた。

あの雪原で、私は燃えるような火の中で賭けに出た。

古い恨みと新しい憎しみの狭間で、私は彼の心が動いた一瞬を見逃さなかった。

この章はVIP限定です。メンバーシップを有効化して続きを読む。

あなたへのおすすめ

木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度
木彫りの祈りと蛍光灯の夜、君の手の温度
4.8
蛍光灯の下、木彫りの作業台に向かいながら、静かな寮の一室で配信を続けていた相原直。幼い頃から孤独と向き合い、木に祈りを刻むことで日々を乗り越えてきた。新たな同居人・神谷陸との距離は、最初は冷たく、時に痛みや誤解も重なったが、少しずつ互いの孤独に触れ、手の温度が心を溶かしていく。SNSでの騒動や、身近な偏見に晒されながらも、二人は小さな勇気を積み重ねてゆく。年越しの夜、灯りと祈りが交錯し、静かな祝福が胸に降りる。二人の時間は、これからも波のように続いていくのだろうか。
君に手を伸ばすために、もう一度だけ春に還る
君に手を伸ばすために、もう一度だけ春に還る
4.8
幼い頃からエレナに尽くし、すべてを捧げてきたミナト。しかし彼女とその恋人・戸田に裏切られ、命まで奪われた彼は、ふたたび17歳の春に目覚める。過去と向き合いながら、今度こそ大切なものを守ると誓うミナトの前に、もう一人の幼なじみ・栞が静かに寄り添う。時に残酷な選択を迫られながらも、二人の距離はゆっくりと変わっていく。赦しと再生の狭間で、彼は本当に自分の願いに辿り着けるのだろうか。
お年玉とギフトでつながる約束——都会の片隅で君ともう一度
お年玉とギフトでつながる約束——都会の片隅で君ともう一度
4.8
子どもの頃、何気なく交わした「大きくなったら結婚する」という約束。その言葉は、時を超え、都会の片隅で再びふたりを結びつける。見栄っ張りでお世辞ばかりの春斗と、冷静で優しさを隠し持つ小雪。お年玉やギフト、数字でしか示せない不器用な誠意と、すれ違いながらも少しずつ近づく距離。家族や猫たちに囲まれた静かな日々の中、ふたりの関係は少しずつ変化していく。約束の重み、過去の記憶、そして新しい命の気配。——この幸せは、本当に手に入れていいものなのだろうか。
桜京の城壁から、何度でも君を選ぶ——転生皇女の終わらない夢
桜京の城壁から、何度でも君を選ぶ——転生皇女の終わらない夢
4.8
皇女・咲夜は、過去の痛みと後悔を抱えたまま再び人生をやり直す。側仕えの蓮との歪んだ愛、将軍家の娘・紗季との因縁、そして転生者として現れた白河湊との静かな駆け引き。運命を繰り返すなかで、愛と裏切り、選択の重さを知る。夢と現実が交錯する世界で、彼女は自分自身と向き合い、終わりと始まりの境界を歩む。最後に、現代の病院で目覚めた咲夜の心には、もう一度だけ信じてみたい誰かの温もりが残っていた。それでも、この物語は本当に終わったのだろうか。
悪役の妻、禁断の蘇生
悪役の妻、禁断の蘇生
4.9
十年の時を超え、システムによって蘇った私は、記憶を失いながらも冷酷な悪役・東雲圭吾を救う使命を背負わされる。亡き妻の面影を背負う私に降りかかる周囲の嘲笑と絶望的な任務——それでも、誰にも踏み込めない孤独な魂の奥底で、ほんの小さな希望が灯り始める。愛か、破滅か、私の選択がすべてを変える。
裏切りの記憶とふたつの家族
裏切りの記憶とふたつの家族
4.9
娘を救うために命を賭けた尚美は、記憶喪失とともにすべてを失い、帰郷した時には夫は新たな妻を迎え、子供たちも母を忘れていた。新旧ふたつの家族の間で揺れる母の愛と誇り、そして女としての再出発――愛か、家族か、それとも自分自身か。波乱の選択が、彼女と家族の運命を大きく変えていく。
裏切りの婚約者
裏切りの婚約者
4.9
都の桜と呼ばれた紅子は、戦後の軍営で誇りと愛を失い、運命に翻弄されながらも自分の道を選ぶ決意を固める。伊達蒼真への秘めた想いと裏切り、そして新たな婚約者との約束――紅子の選択が、すべてを変えていく。愛と絶望、誇りと嫉妬が交錯する中、彼女は自らの手で未来を切り開こうとする。
裏切りの雪夜、ふたりの秘密
裏切りの雪夜、ふたりの秘密
4.9
理想的な夫婦を演じてきた和也は、初恋の瑞希との再会によって禁断の関係に堕ちる。優しい妻・綾香の無垢な笑顔と、満たされない心の隙間――二つの愛の狭間で揺れ動く彼に、雪の夜、決定的な瞬間が訪れる。崩れゆく日常と、誰にも言えない“秘密”が、静かに彼らの運命を変えていく。
裏切りの優等生
裏切りの優等生
4.9
孤独な天才少女・ミユキは、復讐と愛が渦巻く高校で「高嶺の花」として君臨する。しかし、彼女の純粋な心を揺るがすのは、偽りと欲望に満ちた罠と、甘く危険な美少年ナオだった。愛と裏切り、そして本当の自分の価値——すべてが暴かれる瞬間が迫る。
宿敵から1億円、禁断の朝
宿敵から1億円、禁断の朝
4.9
全国放送のバラエティ番組で、宿敵に無理難題を持ちかけた美月。羞恥と緊張に震える中、彼女の一言が思いもよらぬ大金と危険な関係を引き寄せる。裏切りと欲望が渦巻く、人生最悪の朝が今、幕を開ける。