君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離 / 第10話:ラムスープと休暇の罠
君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離

君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離

著者: 本田 陸


第10話:ラムスープと休暇の罠

その後の十四日間、私は天宮先輩に会わなかった。

この間、私は天宮先輩の言いつけ通り、素直に帝都防衛アカデミーにいた。

十四日目の夜、私はアパートのドアを開けた。

天宮先輩はエプロン姿で、キッチンからラムのスープを運んできた。

制服を脱いだ彼は、柔らかく温かな雰囲気だった。

首の後ろにインヒビターパッチはなく、腺体は健康的な色をしていた。

「如月。」天宮先輩は私を見て言った。「ご飯を食べよう。」

夢のように食卓に座ると、時間をかけて用意したと分かる手の込んだ料理が並んでいた。

「先輩、もう任務に出ないんですか?」私は顔を上げて聞いた。

「数日休暇を取って、君と過ごすために帰ってきた。」天宮先輩は私の前に薬味の小鉢を置いた。「明日は学校が休みだし、どこか出かけてリフレッシュしない?」

まさか天宮先輩の口からそんな言葉が出るとは思わず、私は慌てて聞いた。「どこに行くんですか?」

「親しい友人と会う予定があるんだ。君にも紹介したい。」天宮先輩は言った。

突然の知らせに目が眩んだ。

先輩が一番の友人に私を会わせるということは、私が彼の生活に入れるということだ!

私は涙をこらえながら、何杯もご飯を平らげた。

先輩は理解していなかったが、またスープをよそってくれた。

天宮先輩はオンライン会議があると言って書斎で寝たが、翌朝私は元気いっぱいに起きた。

天宮先輩の方は少し元気がなかった。

私は近づいて言った。「ごめん、先輩。最近ヒートが近くて、昨日は寝ている間にフェロモンをコントロールできなかったかも。」

天宮先輩は首を振った。「気にしないで。」

私は言わない。昨夜は書斎のドアの隙間から、自分のフェロモンを必死に漏らしていたことを。

恋は、押し引きがいる。

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