千日の秘密と横浜の夜に、キラキラひかる約束を / 第6話:委員長の一喝と噂の真相
千日の秘密と横浜の夜に、キラキラひかる約束を

千日の秘密と横浜の夜に、キラキラひかる約束を

著者: 森下 慎


第6話:委員長の一喝と噂の真相

だが、パーティーが始まってまだ三十分も経たないうちに、担任はすでに顔を真っ赤にして、席からあまり動けなくなっていた。みんなが先生にばかりグラスを回すせいで、応対に疲れ切っているようだった。

一方、霧島怜央は男子たちと一緒に担任に飲み物を注ごうとしていた。冗談の延長が、度を越していく。

「もうやめたほうがいいよ、先生には無理だ」

明日香も頷き、なぜか大きく息を吸い込むと、突然立ち上がって霧島怜央と担任の元へ行き、冷たく言った。目に一点の揺らぎもない。

「ちょっと待って、霧島怜央、先生がもう飲めないのが分からないの?自分の担任じゃないからって、そんなに無責任でいいの?」

明日香の言葉に、みんな驚いた。会話の輪が、ぴたりと止まった。

会場が一気に静まり返り、普段は温厚なクラス委員長がこんなに強く出るとは誰も思っていなかった。彼女の一言で、空気の重さが変わった。

明日香もみんなの視線に気づき、少し緊張した様子だったが、それでも毅然と霧島怜央を見つめ、怯むことはなかった。背筋がまっすぐ伸びている。

「みんな先生の生徒なんだから、飲み物を注ぐのもほどほどにしないと。先生を酔わせるのが敬意じゃない」

担任は明日香がかばってくれたことに感謝しつつ、場を和ませようとした。苦笑いと手振りで空気を緩めようとする。

「大丈夫、大丈夫、まだ飲めるよ、明日香、心配しないで。このくらいのワインは平気だ」

そう言って、担任はグラスを取ろうとしたが、明日香が先にそれを掴んだ。白い指がきっぱりと縁を押さえる。

「だめです、もう飲んじゃいけません。先生の胃は弱いんですから、これ以上は本当に危険です」

担任の胃が弱いことを、明日香はよく覚えていた。体調のメモを誰より丁寧に取っていたのは彼女だ。

次の瞬間、彼女は振り返って男子生徒に言った。声が委員長のそれに戻る。

「杉田俊、田嶋亮、先生を外で休ませて、それから奥さんに電話して迎えに来てもらって」

クラス委員長の指示には誰も逆らえない。二人は素早く頷き、担任の肩を支えた。

担任も背の高い生徒たちに支えられ、外へ連れ出された。ホールの光が背中を撫でていく。

担任がいなくなると、明日香はテーブルのボトルをすっと遠ざけ、霧島怜央のグラスを静かに取り上げた。泡がしゅわ、と小さく消える。

「霧島怜央、先生に無理強いするのはやめなよ。もう十分だよ。今は私がクラス委員として仕切るから、飲み物の管理は任せて」

そう言って、店員を呼び、補充を止めて水と軽食に切り替えるよう頼んだ。

さらに、怜央の手からボトルを取り上げ、別のテーブルへ移した。

彼女の素早い制止に、その場の熱がすっと引いた。

その様子にみんなが驚きの声を上げた。いつも静かな彼女の、別の顔だ。

何しろ、グラスの中身はホテル特製のノンアル・スパークリングジュースだ。炭酸の刺激に、胸が熱くなる。

明日香の豪快さに、全員が唖然とした。彼女の気迫に、場の空気が一歩退いた。

霧島怜央は気まずそうな顔をしていた。肩の力が抜け、笑顔が薄くなる。

その隣の莉佳は顔色がさらに悪くなった。見せたい顔じゃなく、見せたくない顔になっていく。

この章はVIP限定です。メンバーシップを有効化して続きを読む。

あなたへのおすすめ

十年目の夜、捨てられた子猫のように
十年目の夜、捨てられた子猫のように
4.9
十年という歳月を共にした恋人が、ある夜に裏アカウントで自分への本音を吐露していたことを知った大和。湾岸マンションの夜景も、キャンドルディナーも、指輪も、全てが静かに崩れていく。年の差や社会的な壁を乗り越えようとした日々、幼い恋人・陸のわがままも、涙も、すべて抱きしめてきたはずだった。しかし、偽りの愛と、すれ違う孤独が積もり、二人は静かに別れを選ぶ。札幌の冬、東京の会議室、そして暗いビジネスパーティーのトイレ——再会のたびに残る痛みと、触れられない距離。最後に残ったのは、捨てられた子猫のような自分自身と、彼のいない朝の光だけだった。それでも、もう一度だけ彼を愛してもよかったのだろうか。
嘘を食べる朝、顔だけを愛した夜
嘘を食べる朝、顔だけを愛した夜
4.9
LINEの通知音が静かな部屋に響くたび、胸の奥に棘のような違和感が広がる。彩香は、顔だけを愛した彼氏・如月柊の違和感を、ふとした瞬間に見逃さなかった。兄弟の影、重なる嘘、そして誰にも言えない夜。港区の高層ビルと下町の小さな部屋、二つの世界を行き来する彼女は、やがて自分だけの逃げ道を選ぶ。愛と計算、演技と素顔、その狭間で最後に残ったものは何だったのか――。 それでも、朝の光に滲んだ微笑みは、本当に自由だったのだろうか。
お年玉とギフトでつながる約束——都会の片隅で君ともう一度
お年玉とギフトでつながる約束——都会の片隅で君ともう一度
4.8
子どもの頃、何気なく交わした「大きくなったら結婚する」という約束。その言葉は、時を超え、都会の片隅で再びふたりを結びつける。見栄っ張りでお世辞ばかりの春斗と、冷静で優しさを隠し持つ小雪。お年玉やギフト、数字でしか示せない不器用な誠意と、すれ違いながらも少しずつ近づく距離。家族や猫たちに囲まれた静かな日々の中、ふたりの関係は少しずつ変化していく。約束の重み、過去の記憶、そして新しい命の気配。——この幸せは、本当に手に入れていいものなのだろうか。
凌雲橋のほとり、消えぬ魂と約束の夜
凌雲橋のほとり、消えぬ魂と約束の夜
4.9
霞が関地下の異能者行政「高天原」で働く神代 蓮は、三年前の祝賀会でかつての仲間四人と再会した。西域遠征を経て戻った彼らは、かつての面影を失い、それぞれが異なる痛みと秘密を抱えていた。葛城の精神の謎、猿渡の失われた感情、猪熊の静かな死、沙川の慟哭——すべては霊山会と特務機関、そして見えざる上層部の策謀に絡め取られてゆく。心の奥に残る疑念と嫉妬、別れと再会の記憶。組織と己の間で揺れる蓮は、仲間とともに運命に抗い、最後にはそれぞれの選択を静かに受け止めていく。月明かりの下、すべてが終わったはずの夜に、再び小さな灯りが揺れる——それは本当に終わりなのだろうか。
嘘の夜、塔の頂
嘘の夜、塔の頂
4.7
田舎の閉ざされた学園で守られた“俺”は、東京の編集者として生きながら、マドンナ・美咲と兄貴分・大吾に絡む嘘と恩の糸に引き戻される。過去の暴力事件と未解の一夜、そしてギャンブルで崩れかけた家族――守りたいものと裏切れない人の間で、彼は自分の弱さと向き合い、小さな灯りを絶やさないと誓う。真実に触れた瞬間、次の章で彼を待つのは港での再会と新たな告白だ。
ひだまりペットサロンと、ご近所もふもふクラブの秘密
ひだまりペットサロンと、ご近所もふもふクラブの秘密
4.7
夕凪の町の片隅で、小さなペットサロンを営む天宮小春は、誰にも言えない秘密とともに日々を過ごしている。動物たちの気持ちが届く不思議なLINEグループ「ご近所もふもふクラブ」。猫や犬たちの素直で賑やかな声が、時に悩みや痛みを運び、時に優しい笑いをもたらす。迷子犬の飼い主探し、手術を終えた猫の不安、そして人と動物のすれ違い――小さな日常の中で、心の距離も少しずつ近づいていく。灯りのともる店先で、小春は今日もそっと問いかける。「本当に大切なことは、誰の声で伝えればいいのだろうか。」
十年分の空白と、約束の夏が遠くなる
十年分の空白と、約束の夏が遠くなる
4.7
十年分の記憶を失った俺の前に、幼なじみであり妻であるしおりは、かつての面影を消し、冷たい視線を向けていた。華やかな都心のマンション、豪華な暮らし、しかし心の距離は埋まらない。ALSの宣告と、戻らない過去。しおりの傍らには、見知らぬ男・昴が立つ。交わしたはずの約束は、現実の波に流されていく。あの日の夏の笑顔は、もう二度と戻らないのだろうか。
裏切りの雪夜、ふたりの秘密
裏切りの雪夜、ふたりの秘密
4.9
理想的な夫婦を演じてきた和也は、初恋の瑞希との再会によって禁断の関係に堕ちる。優しい妻・綾香の無垢な笑顔と、満たされない心の隙間――二つの愛の狭間で揺れ動く彼に、雪の夜、決定的な瞬間が訪れる。崩れゆく日常と、誰にも言えない“秘密”が、静かに彼らの運命を変えていく。
お嬢様に飼われた七年
お嬢様に飼われた七年
4.7
幼なじみのミズキに七年間、呼べば駆けつける「便利な男」として縛られてきたタクミは、カラオケの罰ゲームのキスで嫉妬と屈辱に沈み、ついに自分に線を引く。ミズキが“仲人”のように仕向けるアヤカとの関係を受け入れ、手を繋いだ夜に甘さを知るが、ミズキのわずかな嫉妬が胸の灯を消しきれず、次の夜の震える通知が彼をまた揺らす。選ぶのは自分か、彼女の都合か——揺れる心が試される。
雨の日に失われた約束と、記憶の彼方で
雨の日に失われた約束と、記憶の彼方で
4.8
雨音が静かに響く夜、私はかつて救ったはずの彼女と、すれ違い続けていた。結婚という約束のもとで隣り合う日々も、元主人公の帰還をきっかけに、次第に心の距離が広がっていく。信じたい気持ちと、消えない疑念。思い出も、愛も、記憶の波に飲まれていく中で、私はこの世界に残る意味を見失ってしまった。すべてを忘れてしまう前に、本当に伝えたかったことは何だったのだろう。二人の始まりと終わりは、雨の中に溶けてしまったのかもしれない。