千日の秘密と横浜の夜に、キラキラひかる約束を / 第4話:祝福の席で一人だけ観客
千日の秘密と横浜の夜に、キラキラひかる約束を

千日の秘密と横浜の夜に、キラキラひかる約束を

著者: 森下 慎


第4話:祝福の席で一人だけ観客

だが運悪く、俺は担任に強引に莉佳とその彼氏・霧島怜央と同じテーブルに座らされた。思わず水をひと口飲んだ。

この時初めて、莉佳が二年間付き合っていた彼氏が誰なのかを知った。心の準備はなく、ただ視界が揺れた。

気まずさを感じて断ろうとしたが、担任の強い勧めには逆らえなかった。先生の笑顔がまっすぐすぎて、言葉が飲み込まれる。

「悟、もう断るな。霧島怜央は八組の生徒だけど、とても優秀で、外部のコンテストでもよく賞を取っているし、今回の共通テストでも東大や京大はほぼ確実だそうだ」

霧島怜央のことは知っている。八組の学級委員で、学校一のイケメン。いつも後輩女子の憧れの的だった。歩いているだけで、廊下の空気が明るくなるタイプだ。

俺と比べると、見劣りする。鏡の前で否定したことが、今は肯定されてしまう。

担任は微笑みながら俺たちを見回し、特に黙っている莉佳に真剣に言った。優しいが、芯が通った声だった。

「君たちは先生にとって一番の誇りだ。共通テストの激戦もよく乗り切った。二次試験まではまだ気を抜けられないが、今夜くらいは肩の力を抜いて交流してほしい。

「特に怜央と莉佳、二人の勉強の進め方や時間の使い方はとても参考になる。どうやって集中を保って成績を落とさなかったのか、みんなに教えてやってくれ。

「……恋の話は置いておけ。先生は二人が互いに支え合っていたのは見ていたが、勉強を崩さなかったのは立派だ」

……と、先生は真顔で言った。その言葉に、みんなは大笑いした。緊張がほぐれて、空気に甘い香りが混じる。セリフの終わりには先生も少し笑っていた。

莉佳と霧島怜央の顔は一気に赤くなった。照れている様子が、妙に誇らしげでもあった。

俺は苦笑いするしかなかった。笑える立場じゃないのに、笑っておかないと息が詰まる。

物語の筋書きは変わらないが、主役が他人になっただけだ。舞台は同じでも、俺は端っこだ。

その時、莉佳がふと顔を上げ、何気なく俺を一瞥し、口元にかすかな笑みを浮かべた。その意味は分からなかった。挑発か、余裕か、懐かしさか。

以前なら、きっと優しく見つめ返していただろうが、今はただ嫌悪感しかなかった。体が先に拒絶した。

全員が揃うと、担任が心を込めて用意した料理が次々と運ばれてきた。湯気と香りが重なって、会場が温かくなる。

まず俺たち全員に祝福の言葉を述べ、三年間の厳しい指導についても謝罪した。先生らしい、不器用な優しさだ。

四十歳近い男が最後には声を詰まらせ、多くの女子生徒が涙を拭っていた。俺も目の奥が熱くなった。

その後、みんなは互いに乾杯し、特に担任にはひっきりなしにノンアルコールのスパークリングやソフトドリンクが注がれた。担任の先生は保護者やホテルスタッフが見守る中、ワインを一杯だけ口にし、未成年の俺たちはグラスを合わせる仕草だけで盛り上げた。

「悟、先生にお酒を注がなくていいの?」

隣の明日香が興味深そうに聞いてきた。グラスの水滴が光って揺れている。

「俺はいいよ。みんなが注いだら先生が倒れちゃう」

本当は、莉佳の近くに行きたくなかっただけだ。笑顔の輪のなかに入る勇気がなかった。

自分を抑えられなくなるのが怖かった。余計な言葉が出てしまいそうで。

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