第3話:家ホテルでの逃げられない夜
家に帰り、荷物を片付け終えたとたん、母さんから執事の青木さんの携帯に電話がかかってきた。画面に母の名前が光って、逃げ場がなくなった。
「悟、担任の先生が企画したイベントにどうして行かないの?お世話になった先生の顔に泥を塗るような真似は許しませんよ。招待を受けておいて無断欠席なんて、神木家の恥です」
「母さん、どうしてこのこと知ってるの?」
母は忙しいので、普段こういう細かいことには関わらない。だからこそ、驚いた。
「悟、私は忙しいけど、保護者LINEグループのメッセージはちゃんと見てるの。
「名簿にあなたの名前がないのはおかしいでしょ?神木家の人間がこんなに礼儀知らずでどうするの?
「それに、どうしてこの二日間電話がつながらないの?一体どうしたの?青木さんもあなたが魂が抜けたみたいだって言ってるし、ちゃんと説明しなさい」
俺はしどろもどろにごまかした。言葉が追いつかない。
「い、いや、何もないよ。ただスマホが壊れただけ」
本当のことは言えない。学生時代にこっそり付き合っていて、しかも三年間も弄ばれていたなんて、誰にも言えない。喉が締めつけられる。
「壊れたなら新しいのを買いなさい。好きな機種があれば青木さんに言いなさい。今夜また連絡が取れなかったら、お父さんにクレジットカード止められるわよ」
父の厳しい態度を避けるため、すぐに謝ったが、やはり母には本当のことを伝えたほうがいいと思った。逃げても、影は消えない。
「母さん、俺が行きたくないのは、先生が予約した場所がうちのホテルだからだよ」
「え?何ですって?もう一度確認するわ」
十分後、母が再び電話をかけてきた。声色が柔らかくなっていた。
「悟、ごめん、状況をちゃんと把握してなかった。謝るわ。
「でも、今夜のイベントには行きなさい。大丈夫、全部手配してあるから、今夜は誰にもあなたの家のことが知られないよう配慮してあるわ」
うちのクラスは進学校の特進クラスで、担任の先生は三年間ずっと熱心に指導してくれた。顔を思い浮かべると、胸が温かくなる。
みんなそれをよく分かっているから、今回のイベントは誰一人欠席しなかった。いつもの教室の空気とは違う、少し背筋が伸びる夜だ。










