第2話:委員長の知らせと本命彼氏
クラス委員長の星野明日香が俺を見つけたとき、俺は教室で最後の荷物を片付けていた。セイリョウ学院の教室はいつもと同じ匂いなのに、やけに広く感じた。
まだ成績は出ていないが、荷物は早めに片付けておきたかった。ここに置きっぱなしの思い出に、今は耐えられなかった。
「悟、どうして電話がつながらなかったの?」
「スマホが壊れたんだ」
俺が作業を止める気配がないのを見て、彼女は少し驚いた。いつもの柔らかな眉が、僅かに寄る。
「まだ試験が終わって二日しか経ってないのに、もう片付けに来るなんて、早すぎない?」
「早いほうがいいんだ」
もうこの場所には戻りたくなかった。莉佳に関することは何も思い出したくないし、もう彼女に会いたくもなかった。言葉にしない匂いまでが、胸を刺した。
明日香は何か考え込むような表情をした。ふっと視線が泳いで、すぐ戻る。
「顔色が良くないけど、体調悪いの?」
「昨夜、ゲームを遅くまでやってた。ところで、卒業パーティーは何時から?」
実際は一睡もできなかった。ゲームなんて触ってもいない。
「午後六時半、横浜ベイグランドホテルだって」
俺は驚いた。心臓が一度強く鳴った。
「意外でしょ。いつもケチな担任が、成績優秀だった時ですらご褒美もなかったのに、今回の卒業パーティーは横浜ベイグランドホテルなんて」
俺は苦笑した。「本気で奮発したんだな」
横浜ベイグランドホテルは、この町で一番豪華なホテルだ。みなとみらいの海風をガラス越しに感じる、憧れの場所。
「そうよ。うちのクラスは模試でもいつも上位だったし、本番も良かったって聞いたから、先生も嬉しいんだと思う」
「でも先生は言ってたよ、共通テストの激戦も一段落したし、二次試験前の束の間の息抜きだって。クラスの絆を大切にして、今日は勉強の話は抜きで楽しもう。それと、プライベートは詮索しないって」
俺はドキッとした。「どういう意味?」
まさか、俺と莉佳がこっそり付き合っていたことがバレたのか?喉の奥が乾いた。
明日香は悪戯っぽく笑った。「何でもないよ。先生が、今回は家族も連れてきていいって」
彼女は小声で、意味ありげに囁いた。肩が触れる距離で、息がこもる。
「聞いた話だと、莉佳が今夜、彼氏を連れてくるんだって」
胸が締め付けられ、酸っぱい感情がこみ上げてきたが、平静を装った。「彼氏?誰?」
明日香は意味深に俺を見つめた。「知らないけど、もう二年も付き合ってるらしいよ。ただ公表してなかっただけで、どうやらうちのクラスじゃないみたい」
そう言いながら、俺の様子をじっと観察し、反応がないのを見ると、少し躊躇しながら小声で聞いた。ためらいが、目元に滲んでいた。
「悟、家族を連れてくるの?」
莉佳に他にも秘密の彼氏がいることは予想していたが、実際にその事実を聞かされると、やはり胸が痛んだ。口の中が苦い。
三年間の恋が一瞬で終わる。彼氏をあっさり変える彼女にとって、俺は何だったのか?自分の価値が地面に落ちて砕ける音がした。
混乱したまま、思わず口をついて出た。「両親は忙しいし、誰が来てもふさわしくないよ」
明日香はしばらく呆然とした後、突然口元を押さえて笑い出した。笑いながらも、どこかほっとしていた。
俺は訳が分からず彼女を見つめ、ため息をついた。「みんなで楽しんできて。俺は行かない」
「え?行かないの?」
彼女は戸惑っている。目が丸くなった。
「俺はいいよ。みんなで楽しくやってくれ」
行かない理由は二つある。
一つ目は、莉佳に会いたくないから。
二つ目は、横浜ベイグランドホテルは俺の家族が経営しているホテルだからだ。父がこのホテルの総支配人で、俺は幼い頃から裏動線まで知っている。










