第6話:噂の悪龍は月下の美少年でした
私はバツが悪くなり、今まで陰で罵っていたことを後悔した。母の子守唄に文句を言おうと一瞬考えた。
彼は松のように立ち、霜のように冷たく、雪のように孤高。言葉がなくても、立ち姿だけで物語になる。
自分の立場をわきまえた龍なのだろうと思い、私は思い切って顔を上げて明るく挨拶した。「こんにちは」声が軽く跳ねた。
そよ風の中、山の月明かり、晴れた日の白雪のように、少年の澄んだ目が私に向けられ、やがて私の目元のほくろに留まった。視線は丁寧に止まり、少しだけ震えた。
彼は一瞬驚き、冷たい雰囲気が一気に消えた。氷にひびが入り、水が顔を覗かせるように。
目尻に赤みが差し、冷ややかで頑固な視線が私を捉えた。見つめ方に、何か懐かしさの気配が混ざる。
私はすぐに気付いた。この展開、よく知ってる。ほくろが引き寄せる勘違いの気配だ。
昔の非礼を詫びるつもりで、「花梨は死んでないよ、今も元気に戻ってきた。だけど君の恋敵は多いよ」と伝えたかった。先に釘を刺しておくのが、転生者の教え第十二条。
だが、その前に外が騒がしくなった。風がざわめき、門の方から声が重なった。
聞いてみると、あの元師匠たちが病弱な花梨を連れてやってきたらしい。顔ぶれの重さに、空気が微妙に重くなった。
率直に言えば、龍の腕輪を借りに来たのだ。「同じ一族だから」とか、「師匠だから」とか、いろいろ理由をつけて。建前はいつでも用意されている。
大爺爺は呆れて大声で言った。「同じ一族?我が鳳凰一族の至宝をただの野鳥の治療に使うなんて、賢者たちは恥知らずだが、我々鳳凰は誇りがある!」言葉は火のように真っ直ぐで、回廊に火花が散った。
皆が驚いた。「ただの野鳥?」声の色が一斉に変わった。
私は耳をそばだてて聞きたかった。こういうときの大爺爺は、だいたい核心を射抜く。
宵が自分の想い人がただの野鳥だと知ったらどう思うだろうと考えた。視線の先の彼の反応を、ちらりと想像した。
こっそり彼を見ると、宵は一瞬たりとも私から目を離さず、澄んだ瞳に微笑みと謎めいた感情が浮かんでいた。視線は静かに私を包んで、離れなかった。
私は頬を赤らめて視線を逸らした。火の色が頬に移っただけ、と言い訳したくなる。
ああ、君の想い人はあっちだよ、なぜ私を見るの。正直、居心地が悪い。
そのとき、花梨が風に吹かれて私の前に現れた。衣がふわりと揺れ、香が薄く漂った。










