第2話:七賢者と『身代わり』鳳凰
まさに涙と感動の物語だ。落ち込んでいた一族はたちまち元気を取り戻した。鈴は再び鳴り、笑いが戻り、宮の池に映る月まで眩しいほどだった。
母曰く、最初はそんなに早く子を産むつもりはなかったが、妊娠してからは一族中に守られ、何でも望みが叶えられた。贅沢に負けて、安心して卵を温めることにした。転生者の教えには「甘やかしは要所では受け取れ」とも書かれていた。
その頃の母は、まさに一族の希望の星だった。呼吸一つにまで見守りの視線が乗り、彼女が寝返りを打つと宮中が揺れたほどだ。
あまりに大切にされ、天帝までが「自分の玉座を譲ろうか?」と聞いてきたほどだ。言葉の端に本気が混じるくらいには、皆が焦っていた。
母は一瞬心が動いたが、長老たちにきっぱり断られた。「天帝は激務だ。雅は大事な子を抱えているのだから、そんな苦労はさせられない!」と。宮の決定は迅速で、喝采が起こった。
母はやむなく諦め、百年もそれを惜しんだという。時々、ため息の後で「いま思えば座椅子くらいは貰えばよかった」と笑っていた。
間もなく卵として生まれ、母は本格的に卵を温め始めた。炉の火を柔らげ、風の通りを整え、卵殻に歌を聞かせながら。
だが、どう温めても私は殻を破る気配を見せなかった。火の色を変え、香を変え、祝詞を重ねても、卵殻の沈黙は頑なだった。
一族は焦り、あらゆる孵化法を母に伝授したが、ほとんど効果はなかった。古い巻物を引っ張り出し、師範の知恵を借りても、卵殻は頑丈なままだった。
母は私を「心も体もない石のようだ」と言っていた。言いながらも、掌を卵殻に当てて「ほら、動け」と囁くのが母らしい。
一族は首を長くして待ち続け、千年かけてようやく私はのんびりと生まれてきた。卵殻の割れる音は祝砲のように響き、宮の鈴が面白いほど鳴り続けた。
私の誕生で一族は再び光を取り戻した。壁に灯る火も、池に映る月も、どこか誇らしげに揺れた。
この一族はもともと幼い者を溺愛する習性がある。昔は幼い者のためにより良い環境を整え、誰にもいじめられないように競い合っていた。幼鳥のための寝床の柔らかさを競う大会まであったくらいだ。
だがこの千年、誰もやる気を出さず、皆やる気をなくしていた。炉の火を見つめるだけの日々が続き、羽は打つべき空を忘れかけていた。
大爺爺(曾祖父)は天帝の座さえ嫌がり、鳳凰一族の断絶について研究に没頭していた。彼の書斎は星図と術式で埋まり、眠ることさえ忘れていたようだ。
そのせいで一族の栄光は血筋以外、次第に薄れていった。かつての華やぎは遠い記憶になりつつあった。
私が生まれた後、長老たちは興奮冷めやらず、私が将来いじめられるのではと心配し、再びやる気を奮い立たせた。宮の訓練場に火が戻り、呪陣の手入れが念入りになった。
大爺爺は一族の目標を掲げた。「百年以内に神域を制覇し、五百年以内に高天原で緋鞠が羽ばたくように」その声は冗談めかしながらも本気で、回廊にいた皆が笑って頷いた。
まだ幼い私は手をしゃぶりながら「あーあー」としていただけ、ただお腹が空いていただけなのだが、彼らはますますやる気になり、競争心を燃やした。私の「あー」が合図のように聞こえたらしい。
この世界では、たとえ五百年生きていても、学園の年相に換算すれば「初等科から高等科に上がるくらい」の感覚だ。長寿種族の学齢や成人年齢は人間とは違い、百年単位で進むのが普通。だから私が五百年後に大鳳凰へ成長してから天仙学園へ入学したのも、ごく自然な流れだ。家族が手放す決断をしたのは、私が自分で学びたいと強く願ったからだった。
一族は私を手放したがらなかったが、私の甘えに負けて、ついに天仙学園への入学を許してくれた。宮の門を出るときの見送りは、それは盛大なものだった。
入学時、長老たちが大勢押しかけたせいで、誰も私の師匠になりたがらなかった。圧がすごかったのだと思う。学園の門が軽く震えていた。
喜んでいた私のもとに、天から七人の学院の賢者が争って師匠になろうと現れた。彼らは天仙学園の人気師範ユニット、いわばアイドル師範団「七賢」。入学式の観覧席のさらに奥で、蒼海の龍族の影がひとり静かにこちらを見ていた——後で知る、龍神 宵だ。
天帝は「緋鞠は賢者たち全員を師匠とすることにしよう」と丸く収めた。評議会の決定は早く、周囲は妙な拍手に包まれた。
私は顔を上げて「え?」と呆然。師匠が七人って、聞いたことがない。
七人の賢者は再び私の目元の赤いほくろを見て、露骨に歓喜と未練の色を浮かべた。過去への執着が、視線の温度を不自然に上げていた。
北条 聖は私のほくろを撫でながら「花梨……」と呟いた。指先の温度が嫌で、私は一歩引いた。
私はすぐに察した。嫌な予感は、当たるときはだいたいこういう顔ぶれのときだ。
これが母の言う「転生者の教え」ってやつだ。第一章「身代わりは微笑むな、まず線を引け」。私は心の中でページをめくった。










