十年目の夜、捨てられた子猫のように / 第5話:玄関での懇願と最後通告
十年目の夜、捨てられた子猫のように

十年目の夜、捨てられた子猫のように

著者: 桐谷 柚葉


第5話:玄関での懇願と最後通告

翌日は週末、私は昼まで寝て、ドアを開けると、陸が玄関にうずくまっていた。彼は昨日のままのスーツ姿で、外に出ている手や首は真っ赤に凍え、背中を丸めて小刻みに震えていた。海風が吹きつけるマンションのエントランスは、冬の刃みたいに冷たかった。

私は足で彼を軽く蹴った。

「何してるの?」彼は反射的に私の足首を掴んだが、すぐに冷たい手で私を冷やさないようにと手を離した。

寒い。

「大和、別れたくない。あんな投稿だけで、俺に死刑を宣告しないでくれ。」彼は膝をつき、私の服の裾を握り、必死に揺らした。指先は冷たくて、震えている。

「君は俺のプロポーズを受けてくれた。もうすぐ結婚できる、あと少しで一緒に年を重ねられるんだ。一生愛してくれるって言ったじゃないか、約束を破らないで、そんなことしないでよ。」彼は涙をぼろぼろ流し、哀れな顔で懇願した。息が白い。

やめろ。

私は手を伸ばし、彼の顔に手を当て、赤くなった目と震えるまつ毛を隠した。

泣き顔が、本当に痛々しい。

「許してよ、大和。俺が悪かった、ごめんなさい。君はプロポーズを受けてくれた、ハネムーンも全部手配した、長い間休みも取って、ずっと計画してたんだ……君を悲しませたくなかった、君をずっと幸せにしたかったんだ。」私はそんな彼を見て、不意に笑い、手を引っ込めてティッシュで手の涙を拭いた。

「君の過ちは一度や二度じゃない。私はいつも許してきたけど、それは君の謝罪が誠実だからでも、可哀想だからでもなく、ただ君が好きだったからだ。でも今は、なぜ許す必要がある?」

「もう俺のこと好きじゃないの?」

彼は突然立ち上がり、私の肩を掴んで壁に押し付け、目は毒を含んだ刃のように私を射抜いた。

「俺はネットで愚痴っただけだろ。君が見るなんて思わなかったし、そんなに怒るとも思わなかった!今まで君は全部許してくれたのに、なんで今回はダメなんだよ?本当に変わるから、どうして信じてくれないんだ……」私は彼の目尻の涙を拭い、かすかな希望が浮かぶその瞳を見て、彼の頬を軽く叩いた。

「去年昇進した後、毎晩遅かったのは仕事?それとも俺を避けてた?最初に近づいたのは俺の金とコネ目当てだろ。」

「俺に本心を捧げたことなんて、一度もなかったんじゃない?」

彼は力なく首を振り、必死に私を抱きしめ、荒い息を耳元に落としながら何度も謝った。

彼の泣き声を聞きながら、私は全身の力が抜けていくような、胸の奥が締め付けられる痛みに襲われた。しばらくして、彼はようやく私がもう戻らないことを悟った。彼は腰に回した手を離し、顔を上げ、無理に笑顔を作った。

「じゃあ、友達にはなれる?十年の付き合いだ、恋人になれなくても、家族みたいなものだろ?」私はうつむき、彼の涙と歪んだ笑顔を見て、もう少しで心が揺らぎそうになった。

だがふと、十年の間、彼が私に背を向けるたびに、まるで歌舞伎の隈取りのように顔を変えていたことを思い出した。私の一言一動、生活の全てが彼には嫌悪の対象だった。私が一生を共にしようと決意した時、彼はどうすれば負担なく私から離れられるかを計算していた。

私たちの甘い思い出も、真実が明るみに出た今では、鋭い刃となって私を刺した。彼の十年にわたる偽りの愛は、彼が思う以上に残酷で、私を惨めにした。

私は胸を押さえ、身をかがめて冷たく言った。「無理だ。友達も家族も十分足りてる。」

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