初雪の日から、白髪になるまで一緒にいよう――僕が“当て馬幼馴染”だった世界の果て

初雪の日から、白髪になるまで一緒にいよう――僕が“当て馬幼馴染”だった世界の果て

著者: 伊藤 さくら


第5話:「悲しまない」という残酷な答え

今日は珍しく美羽が早く帰ってきた。彼女はようやく異変に気づいたようだ。「なんでこんなに家のものが減ってるの?」

「新しいものに買い替えたくて。」僕は適当に言い訳した。軽く笑ってみせる。

「確かに新しくしたほうがいいね。このカードで買って。ボーナスが入ったばかりだから、二人で買ったことにしよう。」

僕はふと聞いた。「一緒に買いに行ってくれる?」

「彼方、私仕事が忙しいの。」

彼女は僕を見ることさえしなかった。でもその口調には苛立ちが混じっていた。まるで僕が子供じみていると責めているようだった。

もし彼女が一度でも僕を見てくれたら、僕の悲しみがあふれているのが分かっただろう。視線を交わせないまま、言葉だけが行き交う。

僕は深呼吸して、「うん、分かった。一人で行くよ。」

美羽はいつも「忙しい」と言う。でも僕が手続きから出てきた時、彼女は新と一緒に食事をしていた。二人はとても楽しそうで、そこに僕が入り込む余地はなかった。

昔の僕たちもあんなふうだった。彼女は買い物が大好きだった。でも今は、僕と一緒に買い物に行く時間さえ取ってくれない。そんな言い訳が、あまりにもストレートで胸が痛む。

これが「愛していない」ということなのか。どんな小さなことも、美羽がもう僕を愛していないことを思い知らせる。

僕は激しく咳き込み、口元を押さえた。指先にあたたかいものがにじむ。

美羽は眉をひそめて僕を見た。僕は咳き込んだ血のついたティッシュをこっそり丸めて手の中に隠した。

「どうして咳してるの?またこっそりタバコ吸ったの?」彼女は不機嫌に責める。「それともまたこっそりお酒飲んだ?」

僕は首を振った。そんなことはない。僕はいつも美羽の言うことを守ってきた。彼女のために煙草も酒もやめた。ストレスが溜まったときに、ほんの少しだけ。

彼女はそのことを知っているはずなのに、今はもう僕を信じてくれない。信頼は、壊れると音がしない。

僕が大丈夫そうだと分かると、彼女はすぐに背を向けて去っていった。

「美羽。」

僕は彼女の手を引き止めて、試すように聞いた。「もし、いつか僕がいなくなったら、悲しむ?」

「悲しまない!」

彼女はじっと僕を見つめて言った。「彼方、あなたは大人でしょ。そんな子供じみた手はやめて。かくれんぼじゃないんだから。」

昔、美羽は僕にべったりだった。まるで小さな尻尾のように僕の後ろをついてきた。ある日、かくれんぼをしていて、僕は木の上でうっかり寝てしまった。

美羽は大泣きして、みんなが集まってきた。僕は両親に叱られた。美羽は真っ赤な目で僕をかばい、「叩かないで」と泣きながら僕を抱きしめた。「彼方、置いていかないで。いい子にするから、もう泣かない。」

「これからは何があっても絶対に僕を置いていかないで。」

「うん。」

僕は目で美羽の顔をなぞった。あんなに笑顔が素敵な彼女が、どうしてまた眉をひそめているのだろう。今の彼女は、かつて僕を失うことをどれほど怖がっていたか覚えているのだろうか。

きっと、もう覚えていないだろう。彼女の記憶は本当に悪い。昔どれほど僕を愛していたかも覚えていないなら、僕が彼女に嫌われるようなことをどれだけしたかも忘れてくれるだろう。

「うん、分かった。」僕はうなずいた。やっぱり、彼女は悲しまないのか。見知らぬ人ですら僕のために涙を流してくれるのに。

悲しまないほうがいい。ヒロインが当て馬幼馴染のために悲しむことはないのだから。言葉にすると、少し楽になるふりができた。

美羽の背中を見つめながら、心の中でそっと「さよなら」と呟いた。吐く息と一緒に、白く溶ける。

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