第3話:見張り役と生け贄の席
沙川とはもともと親しくなかった。私は口数が少ない方で、無口な沙川とはなおさら会話がなかった。
だがその日、沙川の様子が大きく変わっているのに気づいた。
彼は一人隅で黙々と酒を飲み、目元は赤く染まっていたが、涙はこぼれていない。沈黙の底で、何かが壊れる音がした気がした。
私は酒瓶を呼び寄せ、彼の前に座ってグラスを差し出し、乾杯して尋ねた。
「どうした、何かあったのか?」
沙川は一瞬で涙をこぼし、抑えていた感情が一気に溢れ出た。声にならない嗚咽が喉を震わせる。
私は直感的に不穏さを感じ、手を振ってパーテーションを立て、周囲の視線を遮った。こういう場で誰かの弱さを晒すのは、最も危ない。
沙川は涙を拭い、自分の失態に気づいたのか、慌てて左右を見回した。
私は酒を口にし、なぜ宗教結社の幹部が付き添っているのか理解した。
それは、宗教結社が西域遠征の四人が余計なことを口走らぬよう、監視し、拘束しているのだ。
西域遠征は、人間・異能者・神格保持者・宗教勢力、すべてを巻き込み、組織全体が因果に落ちた。この日、特務機関の古参たちは何かを知っていたのだろう、早々に霞が関を離れていた。
ただ、私は地方出身の神代で、警告もなく、会長に名指しでここに残された。見張り役、そしてスケープゴートの両方として。
そう思うと、私は苦笑し、再び酒をあおった。
「ここは本部だ。俺の話を盗み聞きするやつはいない。」
「で、何があった?」
沙川はたちまち号泣した。西域遠征で何千キロも歩き、数々の危機を乗り越えた男が、今や崩れるように泣き叫んでいる。
「変わったんだ! みんな変わった!」
「霊山会本部に入ったら、彼らはもう戻れない!」
沙川は慟哭した。
私は理由を問い詰めたが、沙川は顔色を変え、突然大声で泣き叫んだ。
「大僧正はあの日、私にこう言ったんです。『私の元に来なさい。功徳を積めば、過去の罪や失敗なんてどうとでもなる。取経の一行につき、霊山で手を合わせてこい。その時、働きが立てば昔の件は不問にし、本職に戻してやる』――なのに、なぜ私は復職できないんですか!」
私は眉をひそめ、考えを巡らせ、低く言った。
「沙川、お前ほどの実力者なら、本来なら幹部待遇だ。これは俺にもどうにもできない。大僧正と会長に直接掛け合うしかない。」
立ち上がり、袖を振って立ち去ると、背後から一つの視線がパーテーション越しに私を見ていた。
私は振り返り、腕を組んで冷たく睨んだ。「……監視カメラ越しに覗き見とは、趣味が悪いな。」
そのカメラは一瞬で消えた。
沙川は悲しげな顔で手を合わせ、席を立った。
猪熊は私を訪ねてこなかった。誰とも話さず、ただ呆然と猿渡を見つめていた。
四人と宗教結社の幹部が去ると、特務機関の面々が徐々に現れ、下級エージェントに情報を探らせていた。
誰かが私に尋ねに来ようとしたが、何かの噂を聞いたのか、少し距離を置いた。
私は全く気にせず、一人で酒を飲み続けた。










