第1話:終わりを告げる祝賀命令
凌雲橋に落ちたのは、葛城 玄なのか。それとも――精神転写、いわゆる金蝉脱殻の術で生まれた“抜け殻”なのか?
猪熊 猛の霊的供給係は本当に“美味しい役職”なのか?任されるのは、エーテル――言ってしまえば“霊の燃料”だ。触れ込みは甘い宣伝文句に過ぎないのでは……そんな疑念が拭えない。
猿渡 剛の精神感応制御チップ「緊箍」は、特級執行官に昇格した後に消えたはずだ。観音ですら手放したくなかったその呪具が、なぜ消滅したのか? 頭の奥に焼き付いた痛みだけが残った理由も、どうにも腑に落ちない。
三界の頂点に立つ御門 会長は、本当にあんなに弱いのか? それとも、あの弱さは演技なのか――。
私は神代 蓮。霞が関の地下、「高天原」――特務機関本部の中枢にある異能者行政の心臓部で働く特級執行官だ。今日はどうにも胸の奥がざわつく。理由は見えているのに、まだ指が届かない。
この世界では、宗教結社は超常対策の準パートナーとして政府と協定を結び、特務機関とも正式に連携している。「天宮」や各本部は、その協定と監督のもとで特例運用されている。
あの四人と再会したのは、三年前のことだ。
あの日、西域遠征を終えた四人が帰還し、特務機関は祝賀ムード一色、霞が関も眩いばかりの光で満ちていた。御門 会長は本部「天宮」で盛大なパーティーを開き、四人の帰還を讃えた。豪奢なシャンデリアの下、紙吹雪の舞う光景はまるで政治ショーだった。
そのニュースが流れると、霞が関の地下組織はしばらく騒然となった。御門 会長自ら私のもとに現れ、四人を丁重にもてなすよう命じた。特に葛城 玄とは親しく接し、疑念を抱かせぬよう念を押された。言外に、“余計な詮索はするな”という圧も感じられた。
猿渡たち三人については、一言も触れなかった。
「なぜ“特級執行官”とは呼ばないのか」と私は問うた。
御門 会長は目を閉じて微笑み、首を振った。柔らかな笑みの奥に、冷たい計算が覗く。
私も首を振り、背を向けて部屋を出たが、その背に会長が声を投げた。
「神代、プロジェクトは終わった。多くのこと、多くの人が終わる。お前も、分かるな?」
私は気にせず立ち去った。まさか、その時点で、それが四人と“平穏な関係”でやり取りできる最後になるとは思いもしなかった。胸のどこかで、嫌な予感は燻っていたのに。
その日、四人は本部に昇り、宗教結社「霊山会」からも幹部たちが集まった。
葛城 玄、猿渡 剛、猪熊 猛、沙川 静。
宗教結社の幹部が付き添うので、私は特務機関の主だった者たちにも同席を願った。公の場にして“監視”を薄める狙いもあった。
だが、霞が関の地下は広いのに、上層部の幹部や古参のエージェントたちは皆、不在だった。
結局、当日その場にいたのは私と下級のエージェントだけで、官側の代表として利害関係のある有力団体の理事を“接待”する役回りを押しつけられた。うんざりだ。










