第6話:追い続けた背中と解放の予感
「その場で待っててって言ったのに、どうして聞かないの?また怪我したらどうするの……」
小雪の優しい声を背に、私はひよりと一緒に上の階へ向かった。
病室の前で、私は足を止めた。
「さっきのこと、母には言わないでくれ……」
「分かってる、安心して。」
ひよりは一瞬目を伏せ、ふいに私を見つめた。
「彼女のこと、どうするつもり?」
「私は……」
何と言えばいいか分からず、重苦しい気持ちが胸を圧迫した。
「先輩、あなたはいい人よ。ちゃんと大事にされるべき人だよ。」
ひよりの言葉が、私の心の壁を崩した。我慢できず、壁に向かって深呼吸した。
こんな言葉を聞くのは、どれくらいぶりだろう。私も大事にされる価値があるのだろうか?
背後でゴミ箱が「ドン」と音を立てた。
振り返ると、小雪が血の染みたティッシュを冷たい顔で投げ捨てていた。手からはまだ血が流れていた。
「君……」
小雪に「天宮のところにいなくていいのか」と問い詰めようとしたが、彼女の傷を見て言葉が変わった。
「ここで待ってて、包帯を取ってくる!」
包帯を持って戻ると、小雪はもういなかった。ひよりだけが残っていた。
「電話がかかってきて、出て行ったよ。」ひよりが言った。
はは、と自嘲した。今さら何を期待しているのだろう。
ひよりは私の手から包帯を受け取り、指に深く刻まれた跡を見てため息をついた。「先輩、彼女も自分も、もう解放してあげて。」
ひよりは肩を叩いて去っていった。
私は胸が苦しくてたまらなかった。
私と小雪、いつも私が追いかけてばかりだった。
ずっと追いかけていれば、いつか彼女の隣に立てると思っていた。
でも、実は彼女は私が思っていた場所にはいなかった。いつの間にか、彼女は私の世界から外れていたのだ。
一睡もできず、翌日、目の下にクマを作って病院に行くと、小雪はすでに来ていた。
土日は決して早起きしない小雪が、十年以上も変わらなかったその習慣を破っていた。珍しいことだ。私は小雪が何を考えているのか分からなくなった。
彼女は母のためにミカンを剥き、ずっと笑わせていた。昼食も病室で、病院のコンビニで買った軽食を談話スペースで食べた。
食後、母にせかされて、私を送り出すと言った。
「いいよ。君は帰って。僕はここにいるから。」
私が反論する隙もなく、小雪は私を病室から引っ張り出した。
「天宮のところにいなくていいの?」
病室の外で、私は彼女の手を振りほどいた。
「今日は彼の妹が付き添ってる。」










