七度目の転生で、傲慢な令嬢は狂犬の首輪を締める

七度目の転生で、傲慢な令嬢は狂犬の首輪を締める

著者: 清水 朱音


第6話: 会長を釣る半殺しの賭け

私はベッドにうつ伏せになり、不器用な使用人に薬を塗らせた。部屋に一人になると、蓮が窓から飛び込んできた。影が床を滑る。

……どういうことだ?私より重傷なのに、窓から入れるのか?私は寝返りも打てないのに。情けなく、笑ってしまいそうになる。

蓮はベッドのそばに直行し、かつてないほど険しい顔をしていた。

「わざとだな。」

一語一語、私を睨みつけ、目が燃えていた。

私は首をすくめ、さっきの無謀な行動は会長を騙せても、蓮には通じないと悟った。

「そうだ、わざとだ。」

私は最初から書斎の客が会長だと知っていて、わざと騒いだ。

桐島家の冤罪を訴えるのも計画通りだった。言葉の置き方まで、事前に整えていた。

「会長に再審を願っても無駄だ。彼は絶対に桐島家の冤罪を晴らさない。」蓮は目を赤くした。

「もちろん知ってる!だって会長こそが桐島家の粛清を望み、父はそれを察して協力したんだ。」

「知っていてやったのか!会長が怒れば、いつでもお前の命を奪えるぞ!」

「無茶をしなければ、君が会長の前に出る機会なんてないだろう?」

蓮は突然私の手首を掴み、危険な目をした。圧が強い。

「どこまで知っている?」

「君は冤罪を晴らし、復讐を果たそうとしている。しかも西園寺邸だけでなく、現会長にも……」

蓮は身を固くし、私は声を低くした。

「君の部下は次期総裁とも繋がっているが、計画の最後の一歩が足りない。」

「次期総裁と直接会う必要があるが、彼は財界の裏会合にいて監視が厳しい。チャンスがない。」

「今日だけが……」

言い終わる前に、蓮は怒りで笑った。笑いが鋭い。

「だから自分の命を賭けたのか!私が忠義を理由に邸宅に乗り込み、会長の前で次期総裁に会うために?」

「もし私が来なかったらどうするつもりだった?他の方法も……」

「君は必ず来ると思ってた。」

私は蓮の目を見つめ、最初から彼が来ると信じていたことに気づいた。喉の奥から、安堵がひっそりと上がる。

「それに、もし来なくても私は死なない。」私はいたずらっぽくウィンクし、蓮の手を振りほどいた。「今や父には私しか子供がいない。どんなに出来が悪くても、必ず守ろうとするはずだ。」

「せいぜい……半殺しにされるくらいだろう。」

「ふん、西園寺のお嬢様は誰も彼も計算に入れているんだな。」

蓮は鼻で笑い、私はその皮肉に腹が立ち、襟を掴んで彼を引き寄せ、キスをした。

彼は一瞬ためらったが、すぐに激しく応じた。

久しぶりの体の触れ合いに、私はすぐに息が上がり、離れようとしたが、蓮は後頭部を押さえてさらに求めてきた。

「蓮、心配なら素直に言え、回りくどいのはやめろ。」

「ご主人様こそ自分を心配しない。」

その「ご主人様」という声で、私は彼が折れたとわかり、息を整えながら彼の唇を撫で、指を首筋に滑らせた。

「またつけてるのか?」

指先で首輪を軽く叩く。前回彼が出ていった時、外したはずだ。

蓮はうなずき、ベッドの脇に膝をついて、私が撫でるのを待った。犬みたいに、素直に。

彼は私の指を口に含み、艶めかしく舐めてきて、私は耳と腰が熱くなった。

「もうからかうなよ。」

私は軽く彼を叩き、血まみれの背中で本気になったら大変だ。

「蓮、これだけ知ってて、なぜ私を疑わない?」

「私の計画を密告すると思うか?」蓮は信頼の眼差しを向けた。「もしそうなら、私はもう生きていない。」

「なら、父を殺さないでくれるか。」

再びその話題を持ち出すと、蓮の体が明らかに強張った。肩が固くなる。

「私はできる限り君を助け、桐島家の冤罪を晴らし、事件に関わった者を清算する。でも父は殺さないでほしい。」

「これは取引か?」蓮は低く問う。

「いや、」私は彼の手を優しく握った。「お願いだ。」

蓮は長く沈黙し、滅門の仇を簡単に捨てられるものではない。

彼は私をじっと見つめ、最後に目を閉じてため息をついた。

「……わかった。」

それから、物事は急速に進展した。

この日、連合会の声明が出され、メディアと監査法人が動き、検察が再捜査を開始。高裁が再審請求を受理し、桐島家冤罪事件に新たな証拠が見つかった。ニュースのテロップが電光掲示板のように回る。

これは異例で、会長の性格からして絶対にあり得ないことだ。

事件に関わった幹部たちは動揺し、父のもとに集まって相談した。足音がせわしない。

父は決断し、財界の裏会合に出席することにした。

出発前、私は父を呼び止めた。

「今日は母のお盆法要です。父上、仏間で手を合わせてからお出かけください。」

父は袖を払って、私が事の軽重をわきまえないと言い、急いで出て行った。柳夫人は彼を見送り、私を一瞥してまた陰湿な笑みを浮かべた。

私は気にせず、一人で沐浴し着替え、本家の仏間で母に線香を供えた。香の煙が静かに立ち上る。

一刻ほどして、父は険しい顔で帰ってきた。

「会長は皆を召したが、私だけは呼ばれなかった。だが誰も戻ってこない……」

彼は独り言をつぶやき、何かに気づいて荷物をまとめ、納屋に駆け込み、人目を避けて火をつけた。火の匂いが瞬時に広がる。

あっという間に、炎は西園寺邸全体に広がった。乾いた木が爆ぜる音が続く。

私は裏庭の人工滝のそばに座り、父が裏道から逃げようとするのを見ていた。だが、飛んできた短刀が道を塞いだ。金属の光が炎に揺れる。

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