七度目の転生で、傲慢な令嬢は狂犬の首輪を締める

七度目の転生で、傲慢な令嬢は狂犬の首輪を締める

著者: 清水 朱音


第5話: 再審を叫ぶ背に降る鉄槌

父の誕生日、私は書斎に行こうとしたが、見知らぬ黒服に止められた。西園寺会長が重要な客人に会っているから邪魔するなと言う。腕で道を塞ぐ仕草が慣れている。

私は不満げに騒いだ。

「何が重要な客人だ!自分の家で誰が私を止められる!」

騒ぎに書斎の中の人が気づき、扉が開くと黒服たちが一斉に頭を下げた。

最初に出てきた人を見て、私は一瞬呆然とし、慌てて頭を下げた。

「一条会長にご挨拶申し上げます。」

父が先に罪を詫び、私は彼の情けを受けず、顔を上げて一条会長を見つめ、溜め込んでいた言葉を一気にぶつけた。

「会長、本日お目にかかれたので、桐島家の冤罪事件の再審をお願い申し上げます。」

これは禁忌の話題で、私が言い終わると周囲は静まり返った。空気が一気に冷える。

会長のそばの次期総裁だけが私を一瞥した。目が細く、冷たい光を宿している。

さらに話そうとした瞬間、父が私の肩を蹴り、黒服に地下駐車場での制裁を命じた。靴が肩の骨に当たる音が耳の奥に刺さる。

ゴルフアイアンが容赦なく背中を打ち、私は歯を食いしばって耐え、額に汗が滲んだ。布の擦れる音と、皮膚が裂ける音が重なる。

十、十一……

黒服が数を数え、会長は高みからすべてを見下ろしていた。視線は動かず、冷たい。

痛みで体が曲がり、膝が崩れそうになるが、さらにアイアンで無理やり背筋を伸ばされた。骨が鳴る。

骨まで染みる痛みが肉に食い込み、私は唇を噛み切りながらも、意地で繰り返した。

「私、西園寺アゲハは桐島家冤罪事件の再審を……」

コップが目の前で割れ、会長が冷たく鼻を鳴らすと、制裁の勢いがさらに強くなった。冷笑がそのまま鞭になる。

意識が朦朧とする中、私は蓮のことを思い出した。

こんな痛みがどうして快感になるんだろう……皮肉な笑いが喉の奥で乾く。

規定回数の制裁が終わる頃、背中は血まみれだった。シャツが肌に貼りついて剥がれない。

「続けろ。」

会長の一言で、またゴルフアイアンが振り下ろされる。

パシッ!

予想された一撃は来なかった。ふらふらと後ろを振り返ると、いつの間にか蓮が駆け込んできていた。彼は私の体を覆い、制裁をまともに受け止めた。背中に赤い線が走る。

「蓮!」

父は怒ったふりをし、口元に一瞬笑みを浮かべた。

「よくも邸宅に乱入し、会長を驚かせたな!お前も桐島家の冤罪を信じるのか?会長は血筋を残したのに、蓮は感謝もせず、会長の裁きを疑うとは……」

「西園寺会長。」

蓮は父の言葉を遮り、ゆっくり顔を上げた。目が真っ直ぐだ。

「私は桐島家のために来たのではありません。」

この一言に父は驚いた。頬がひくつく。

「今日は、西園寺アゲハのために来ました。」

蓮は私と並んで深々と頭を下げ、私の体を支えながら、真剣に言った。

「西園寺アゲハはかつて私が仕えた主です。追い出されても、唯一のご主人様と見なしています。部下として、ご主人様のために罰を受けるのは当然です。どうか会長、お許しを。」

彼は深々と頭を下げた。床に髪の先が触れる。

私は眉をひそめて何か言おうとしたが、かすれ声しか出なかった。喉が焼けている。

会長は無表情で、何を考えているのかわからない。

重苦しい空気の中、突然軽い笑い声が響いた。

「父上は常々、忠義が第一だと仰っていました。この蓮がかつて仕えた主のために罰を願うなら、叶えてやればいいでしょう。父上が気が済むまで打てばいい。」

次期総裁は笑いながら会長に茶を差し出し、許しを得て制裁が続けられた。茶の湯気がふわりと揺れる。

ゴルフアイアンは蓮の体に深く重く打ち下ろされ、彼は唇を噛み締めて一言も漏らさなかった。背中の皮が裂けるたび、空気が震える。

血の匂いが空気に満ちていた。

どれほど経ったか、会長が「もういい」と言って立ち去った。足音が遠ざかる。

残されたのは私たち二人だけ。蓮は蒼白な顔で、私を睨みつけていた。瞳の奥が赤い。

「ちゃんと薬を塗れ、後でまた来るからな。」

「くっ、出てけ出てけ!」

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