第1話: 七度目の刺殺とドM疑惑

私は六度も生まれ変わったが、そのたびに攻略に失敗し、最終的には陰鬱で病的な男主人公に殺された。六回分の痛みと悔しさが骨の髄まで染みて、眠りのたびに刃の冷たさが蘇る。誰にも言えない死に戻りの記憶を抱え、私はもう何もかもにうんざりしていた。

第七回目の転生後、もう我慢できず、目を開けるなり怒り心頭で会員制クラブ『水連』のVIPルームに駆けつけ、部屋にあった銀のテーブルナイフで男主人公を刺した！ネオンがゆらめき、シャンパンタワーの残り香と紫煙、低いベース音が壁を震わせる。白いクロスの上に置かれた銀の刃は、思った以上によく研がれていた。反射神経だけで、私はためらいなく突き立てる。桐島蓮――いわゆる攻略対象、ここの物語で「ヒーロー」とされる男だ。

すると男主人公の頭上の好感度ホログラムがいきなり20も上昇した。スマホのカメラを向けた瞬間に浮かぶ透明な数字が、チカチカと光って跳ねる。「ピン」という甲高い電子音が骨伝導イヤホンから耳の奥で弾けて、まるでゲームのボーナスみたいに加点されるのが見えた。

？？？

なんだと？！

……

まさか。嘘だろ。寒っ。

いや、笑ってる場合じゃない。二度と同じ結末に戻らないために、ここで決めるしかない。腹の底で最後の覚悟を固めた。

「何をやってるんだ！桐島蓮は男主人公だぞ、彼が死んだらお前も生きていられない！」耳元で、スマホのAR表示アプリに常駐しているシステムの声が甲高く叫ぶ。警告の赤い帯が視界の端を走る。

ナイフの先から血が一滴一滴と滴り落ち、スマホのAR表示でシステムが甲高い電子音を鳴らした。VIP個室の照明が血の色を艶やかに強調し、カーペットに広がる斑の赤が、馬鹿みたいに綺麗だった。

「知ったことか！もう六度も死んでるんだ、刺し一発ぐらい大したことないだろ！」私は思いきり白目を剥いた。喉の奥から笑いが漏れそうになって、無理やり飲み込む。

「それに、まだ死んでないじゃないか！」

さすがは男主人公。心臓を狙って全力で刺したはずなのに、ほんのわずかに逸れてしまった。自分の手の震えに舌打ちしつつ、殺意はまだ冷めない。

血溜まりに倒れている桐島蓮を見て、一年後にはまた彼の手にかかって死ぬことを思い出し、私はさらに止めを刺そうとした。生温い血の匂いが鼻腔を満たし、荒々しい呼吸音だけが自分の耳に響いている。

冷たい光を放つテーブルナイフが一気に突き下ろされ、刃先が蓮にわずかに届く寸前、彼が突然目を開けた。視線が絡んだ瞬間、冷水を浴びせられたように背筋がこわばった。

私は思わず震え、ナイフの刃が彼の顔をかすめ、薄く血の筋を残した。頬に走る赤が、絵のように細く長い線を描く。

くっ、惜しい。

他はともかく、蓮のこの顔は非の打ち所がない。端正な容貌に生まれつきの色気。傷が加わっても見劣りせず、むしろ壊れた美しさが増した。刃が触れた瞬間ですら、ぞくりとする気配をまとった。

その目は波風ひとつ立たず、じっと私を見つめている。思わず身を縮めてしまった。底の見えない黒に覗き込まれ、喉が乾く。

こんな人物なのに、私がどれだけ前世で努力しても、彼の私への好感度は最初から最後までマイナスだった！死ぬ間際にやっとゼロになる程度だ。六度の終わり際、あの無情な視線が一瞬だけ柔らぐ瞬間だけが、ゼロだったのだ。

くそっ、そう考えると余計に腹が立つ！

もうどうにでもなれ、今日こそこの男を蜂の巣にして、七度の転生の恨みを晴らしてやる、そうでなきゃ私は西園寺アゲハじゃない！自分で自分に刃を向ける勢いで、私は覚悟を締め直した。

「ピン！男主人公の好感度が20に上昇しました。」

？？？

なんだと？！

頭が混乱し、目の前の血まみれの男を妙な気持ちで見つめた。殺意と好奇心が奇妙に混ざり合い、膝が笑いそうになる。

……

まさか、桐島蓮は本当にドMなんじゃ……

私が沈黙していると、クラブ『水連』の支配人がついに甲高い声で、見物人をかき分けて急いで駆け寄ってきた。落ち着いた黒のイブニングドレスがぎらりと光り、香水と煙草の匂いが強くなる。

支配人は口頭で「西園寺のお嬢様に失礼があっては困る」ときつく叱責した。人が手を出すと、蓮の好感度がガクッと下がる。

「ピン！男主人公の好感度-5。」

立て続けに「-5」が鳴った。

……

「やめろ！」

私は大声で叫び、背中に冷や汗をかきながら、スタッフたちの介入を止めた。衝動的に腕を掴み、力いっぱい引き離す。

どういうことだ？蓮、お前ドMじゃないのか！こんな状況なら喜ぶはずだろ？どうして好感度がどんどん下がってるんだ！私以外の手は嫌いなのか、と思わず眉をひそめる。

蓮の頭上の数字が再びゼロに戻るのを見て、私は怒りにまかせて彼を蹴飛ばした。この気まぐれなやつめ！つま先が脇腹に当たる感触がやけに心地よくて、舌打ちした。

「ピン！男主人公の好感度+10。」

？

私は再び沈黙した。喉の奥がひゅっと鳴る。

まさか……蓮は私の前でだけMなのか？システムのUIに「対ご主人様限定」みたいな条件でもあるのかと、阿呆な仮説が脳裏を横切る。

支配人は私が黙っているのを見て、急いで蓮を罵り続けた。「さっさと西園寺のお嬢様のご機嫌を取れ！」

蓮は全身ボロボロだが、目は静かで波立たず、ゆっくりと口を開いた。声は低く、よく響く。

「西園寺のお嬢様とは面識がありません。どこでお怒りを買ったのでしょうか？」

私は心の中でハッとし、まずいと思った。喉に棘が刺さったみたいに、言葉が詰まる。

この時期の蓮とは、まだ面識がなかった。

どう答えるか考えていると、蓮は自嘲気味に笑った。笑い方に、妙な湿り気がある。

「私の命などどうでもいい、いっそ西園寺のお嬢様の犬にでもなって、楽しみの種にしていただきましょう。」

罪悪感と好奇心が勝ったのか、あるいは死なせたくない衝動が勝ったのか、私は蓮を殺そうとしていたはずなのに、なぜか彼を西園寺邸に連れ帰ってしまった！腹の底から「しまった」が湧くのに、手は勝手に彼を支えていた。

寝室のベッドの上の蓮は眠りに落ちている。失血が激しく、顔色はますます青白い。静かな寝息に、深い疲労と熱の匂いが混ざっていた。

「ユーザー！彼はあなたの犬になるって言ったよ！これって、ついに攻略任務が成功するってことじゃない？」システムが興奮して騒ぎ立てるのを、私はこいつを作り直してやりたい気分で睨みつけた。画面の端でアイコンが跳ね回って鬱陶しい。

「本気で犬になるつもりか？自分で好感度を調べてみろ。」

「えっと……ゼロ？」システムが悲鳴を上げる。「なんでまだゼロなの！」

「まあまあだな。」

私は満足げにうなずいた。

冗談じゃない、これは七度目の転生で一番いい数値だ！少なくとも、蓮の心が完全な石じゃない証拠だ。ゼロは、まだ動く余地がある数値だ。

「男主人公は本当に手強いな。」

システムはため息をつき、私と蓮のせいで評価が台無しだと言う。通知欄が「危険」だの「非推奨」だの赤く騒がしい。

「手強いんじゃない。」

私は蓮の静かな寝顔を見つめ、少し後ろめたさを覚えた。

「誰だって仇の息子に簡単に好感を持てるはずがないだろう。」視線が彼の睫毛に落ちる。長い睫が影を作り、顔の骨格の美しさが際立っていた。

……

私の父が蓮の家族を社会的に破滅させた――これは二度目の転生で初めて知った真実だった。胃の奥で何かが凍るような感覚を伴って、突き刺さる事実だ。

桐島家はもともと創業家を支え続けてきた名参謀の家系だったが、父が仕掛けた「粉飾決算の濡れ衣」とメディアを使ったネガティブキャンペーンで世論を操作され、港区の名家が集う席では誰も真実に触れようとしなかった。さらに連合会の会長の一声で金融機関が一斉に貸し剥がしと信用凍結を行い、桐島家は資産を差し押さえられ、徹底的に追い詰められた。事故や不審死が相次ぎ、蓮だけがかろうじて生き残った。血筋を残すための「情け」が、もっとも酷い生かし方だった。

この決定が、彼らにとって最も残酷な制裁だったのだ。

港区の名家は権勢に媚びへつらい、父も裏で手を回し、蓮はただの平民として虐げられ、辱められ、ついには『水連』でホスト兼用心棒として働かされるまでに落ちた。煌びやかな照明の裏で、足を引っ張る手がいくらでも伸びる。

だが誰も知らない、蓮は虎視眈々と復讐の機会をうかがっていた。夜の街の端を歩く時の目が、それを語っていた。

帰る家を失った闇の犬が反撃すれば、必ず血の雨が降る。

私は蓮の復讐の道で死んだ魂の一つにすぎない。六つの人生の終わりに、彼の刃は必ず私を通過した。

「蓮に何度も殺されたけど、本当は彼を恨めないんだ。」

高尚ぶっているわけではなく、彼は私個人を狙ったのではない。

父が彼の家族を害し、彼は父の家族を殺した。ただの報復だ。計算の帳尻合わせに、私は何度も巻き込まれただけ。

だから六度の転生で私は傲慢な性格を抑え、できる限り優しく接し、何でも願いを聞き、牙を隠した狂犬を感化しようとしたが、まったく効果はなかった！優しさは刃を鈍らせはしないし、彼の心を軟化させもしない。

「恨んでないのに、目覚めてすぐナイフを振るうのか！ユーザー、嘘つきにもほどがある！」

こほん、だって何度も殺されたんだ、ウサギだって追い詰められたら噛みつくさ！

私は憤慨して振り返ると、いつの間にか蓮が目を覚ましていた。瞳が薄闇の中で静かに光り、胸が跳ねる。

目が合った瞬間、私は頭が真っ白になり、彼がシステムとの会話を聞こえないことを幸いに思った。耳の中のノイズを慌ててミュートにする。

蓮の視線は一瞬だけ私に留まり、すぐに伏せ目がちに従順な態度を見せ、ベッドから降りようとした。身のこなしが無駄に綺麗だ。

「西園寺のお嬢様、何かご命令は。」

ちっ、よくもまあ演技ができる。

こんな無害そうな顔に何度騙されたことか。今回はもう付き合ってやる気はない！どうせいずれ死ぬなら、好きにやってやる！胸の奥の開き直りが、舌先を鋭くする。

「ほら、犬になるなら、私をそう呼べ。ご主人様ってな。」

蓮は突然顔を上げ、私の傲慢な目とぶつかった。一瞬だけためらい、すぐに私を引き寄せた。手の力が鋭く、距離が一気に詰まる。

不意を突かれてベッドに倒れ込み、彼の傷口を押しそうになった。布団の皺が音を立て、心臓が跳ねる。

熱い息が耳元にかかり、蓮は極めて近く、しゃがれた声でねっとりと言った。

「ご主人様。」

私は体が硬直し、幽霊でも見たかのように彼を突き飛ばした。背中に冷たい汗が伝う。

力加減を間違え、蓮の胸の傷が裂け、血がガーゼを染めた。彼は痛みで額に汗をにじませながらも、目には陰気な笑みを浮かべていた。頬の傷が笑みに沿って歪む。

「ピン！男主人公の好感度+5。」

くそっ、狡猾なドMめ！

この頃、西園寺アゲハが桐島家の唯一の跡取りを刺したという噂が麻布界隈に広まった。路地裏で、ネオンの下で、井戸端で囁きが回る。

私は全く気にしなかった。どうせ皆、私が傲慢で無茶をすることなど珍しくもない。噂は噂で勝手に踊らせればいい。

「蓮――」

私は小さな箱を一つ放り投げた。光沢のある黒い箱が、弧を描いて彼の手に収まる。

「ご主人様。」

蓮はご主人様と呼ぶのがますます板についてきた。顔色一つ変えず、時には色っぽさすら漂わせる。唇の形が妙に品がある。

「つけろ。」

彼は箱を開け、驚いた表情を見せた。瞳孔がほんの少しだけ開く。

中には褐色の首輪が入っていた。上質な牛革で磨かれ、中央には精巧な鉄の輪が通されている。手に持つと、革特有の香りが立ち上る。

この首輪は本来、裏社会で使われる拷問器具を模した特注の拘束具で、人間がつけると喉元に短いピンが向くよう隠し機構が仕込まれている。安全機構を外せば致命傷になり得る。人がつければ明らかな侮辱だ。私はもうどうでもよくなり、どうせいずれ蓮に殺されるのだから、今のうちに徹底的にいじめてやろうと決めていた。胸の奥で、黒い愉悦が小さく笑う。

「どうした、言葉がわからないのか？」

私は目を細めて嘲った。態度はどこまでも傲慢だった。指先で合図するように、軽く顎をしゃくる。

「ご主人様は冗談を……意外でした、あなたがこういう趣味をお持ちとは。」

蓮は私の想像通りに怒ることも、屈辱や悔しさを見せることもなく、むしろ……首筋に薄く笑みの影が落ちる。

「ピン！男主人公の好感度+20。」

危うく忘れるところだった！蓮の頭はそもそもまともじゃない！

私が呆然としている間に、彼はもう首輪を首につけていた。

褐色の革と浮き出た青筋がよく似合い、顔の浅い傷痕も相まって、野性味が増した。まるで街に捨てられた足の折れた狂犬のようだ。目を逸らせば、噛まれる。

蓮は眉をひそめ、首輪の鉄輪に手を伸ばし、隠された短いピンをゆっくり引き抜き、そのピンと私の目線を合わせて見せた。視線の先にピンを持ち上げ、「気づいている」と無言で告げてくる。

私は即座に顔色を変えた。

「それは私の意図じゃない！」思わず叫んだ。喉がひりつく。

蓮は何も言わず、信じたのかどうかもわからない。彼が手を伸ばすと、首筋に刺さった血の珠が私の唇を染めた。熱い、鉄の味が舌に広がる。

彼は真紅の唇を見つめ、目の奥の感情がどんどん濃くなっていく。静かな熱が、底からじわじわ満ちる。

次の瞬間、彼は獰猛にキスをしてきた。今まで隠していた凶暴さが一気に私を包み込んだ。背中が浮き、視界が一瞬白く弾ける。

唾液と血の味が混じり合い、激しく舌を絡められ、私は顔を真っ赤にして首輪を締めつけ、彼が暴走しないよう必死で抑えた。指が革に食い込む。

だが蓮は首の拘束など全く気にせず、むしろ一層激しくキスを続けた。私は頭が熱くなり、思いきり彼を突き飛ばし、思い切り平手打ちを食らわせた。

パシッ！

蓮の顔はすぐに半分腫れ上がったが、怒るどころか満面の笑みで私の手首を握った。人差し指の関節に唇が触れそうになる。

「手、痛かった？」

「ピン！好感度+15！」

私は驚いてすぐに手を引き抜き、袖を振って部屋を出た。心臓の鼓動がうるさい。

こいつ、やっぱりおかしい！

あの一発はかなり強かったので、蓮が西園寺邸の晩餐会に現れたとき、賓客たちの表情は実に見ものだった。ざわめきと視線が、氷みたいに肌を刺す。