ジャスミンの香りが消える夜、もう一度だけあなたを思い出す / Chapter 9: 第9話:守る代償は「自分の女」
ジャスミンの香りが消える夜、もう一度だけあなたを思い出す

ジャスミンの香りが消える夜、もう一度だけあなたを思い出す

著者: 秋山 みのり


Chapter 9: 第9話:守る代償は「自分の女」

ドアが開き、閉まり、車はすぐに走り出した。

バックミラーには、男たちが悔しそうに追いかけてきて、諦めて立ち止まる様子が映っていた。

その中の一人は手に何かを持っているように見えた。

私は恐怖で震えた。

「工藤さん、さっきは本当にありがとう。」

私は真剣に礼を言った。

工藤仁は前方を見つめていたが、ゆっくりと私に視線を落とした。

「美桜、次はどうするつもりだ?」

私は言葉を失った。

そうだ、いつまでも学校に閉じこもっているわけにはいかない。

次は、こんな幸運があるとは限らない。

スマホを手に取ったが、どう説明していいかわからなかった。警察に通報しようかとも思ったが、「実害がないと動いてくれない」とどこかで読んだことを思い出し、指が止まる。結局、何もできなかった。

「それに、ありがとうの一言だけじゃ足りない。」

車内の仕切りが下がり、広い車内は私と工藤仁だけの空間になった。

彼の煙草の匂いは少し強く、眉の端には浅い傷跡があった。

ただ座っているだけで、圧倒的な存在感があった。

西園寺翔のような若様とは全く違うタイプだ。

私は無意識に身を縮め、距離を取ろうとした。

だが工藤仁は私の腕をつかんだ。

「美桜、俺は気まぐれで親切にするような人間じゃない。」

彼の手に力が入り、私は引き寄せられて前のめりになった。

逃れようとしたが、彼の手はさらに強く私を掴む。

わずかな揺れで、私の鼻先は彼の顎に触れそうになった。

怖くて、混乱して、どうしていいかわからなかった。

ここは大阪、彼のテリトリーだ。

彼はグレーゾーンのビジネスにも通じている。

私は痛いのも、怖いのも苦手だ。

結局、私は普通の家庭の普通の学生だ。

こんな時に自尊心や誇りを守る余裕なんてない。

「工藤さん、今回助けてくれたお礼は必ずする……」

できるだけ身を引いて、これ以上体が触れないようにした。

「本当に、ありがとうだけじゃなく、できる限りのお礼をするから……」

「美桜。」

「俺にはお礼をしたいって言う奴はたくさんいる。」

「じゃあ、何が欲しいの?」

「俺の隣、ずっと空席のままだ。」

彼は私を一気に抱き寄せた。

鼻先が彼の胸にぶつかり、涙がこぼれた。

工藤仁は私の顎をつかみ、涙を拭った。

「美桜、覚えておけ。俺が守るのは自分の女だけだ。」

「他人のことなんてどうでもいい。」

彼の言葉は明白だった。

これが二度目なら、私は路上で倒れても彼は見向きもしない。

私はもう一度彼を見た。

こんな近くで見ると、眉の傷跡がより鋭く見えた。

前を見ても後ろを見ても地獄――私は本当にどうしていいかわからなかった。

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